醸造所訪問2003年6月
C. フォン・シューベルト醸造所
フォルストマイスター・ゲルツ・ジリケン醸造所
ヴァインホフ・ヘレンベルク醸造所
Max. Ferd. リヒター醸造所
メンヒホフ & Joh. Jos. クリストッフェル・エルベン醸造所
クリュセラート・ヴァイラー醸造所
Gutsverwaltung von Schubert-Maximin Gruenhaus (Mertesdorf/Ruwer)
Weingut Forstmeister Geltz-Zilliken (Saarburg/Saar)
Weinhof Herrenberg (Schoden/Saar)
Weingut Max. Ferd. Richter (Muehlheim/Mosel)
Weingut Moenchhof/ Joh. Jos. Christoffel-Erben (Uerzig/Mosel)
Weingut Cluesserath-Weiler (Trittenheim/Mosel)


1.C.フォン・シューベルト醸造所


小川の様なルーヴァー川がモーゼル河に注ぎ込むあたりで、僕達の車は上流へ向かって右折
し、河沿いの谷に沿って進んだ。6月上旬、早くも訪れた夏が気温を30度近くまで押し上げて
いた。しばらくすると、向こうにメルテスドルフの斜面に広がる葡萄畑が見えてくる。つい先日ま
で茶色の禿山のように見えていたのが、すっかり緑に覆われ、葡萄の花がそろそろ開花しつ
つあった。

とある交差点で右折し、フォン・シューベルト家の敷地
に入る。ここのワインのエチケットに描かれた、およそ
100年前の風景は、現在の様子とほとんど変わってい
ない。貴族の避暑用の別荘といった趣の−実際、19
世紀のオーナーはそのために購入したという−木立
に囲まれた館は、現在のオーナー、カール・フェルディ
ナンド・フォン・シューベルト氏が、今も家族で住んでい
る。
約束の時間になったので、僕たちがその住まいに赴くと、開け放した玄関の扉の奥から犬が二匹、吼えながら飛び出してきた。といっても獰猛なドーベルマンではない。1頭はゴールデン・レトリーバー、もう1頭はテリアのような、小型犬。その後ろからゆったりとした歩調で、シューベルト氏が現れた。
「やぁ」と、気さくな挨拶だった。けたたましく吼えていた犬たちは、すっかり大人しくなって、僕達の足元をくんくんと嗅ぎまわっていた。
「今日は、本当にご案内いただけるんですか?」と聞くと、
「だって、約束しただろうう?」当然だよ、といいたげなふうだった。電話では、時間がとれるかどうか判らないので、自ら案内できるかどうか判らないが、訪問はかまわない、ということだった。僕達は運が良かったのだろう。
(C.フォン・シューベルト氏。背景は家族と住んでいる館、築約150年。撮影2001年2月)

館の庭先に立つと、視界いっぱいに覆いかぶさるようにマキシミン・グリュンホイザーの葡萄畑
が広がっている。丁度目の前が、アプツベルク−この醸造所の持つ最上の畑だ。左手にずっ
と奥まで続いているのがヘレンベルク、右手のやや狭い、東向きの斜面がブリューダーベル
ク。それぞれ土壌の性質が違っていて、それに応じてワインの味も違う。
「そして、リースリングは土壌の味をもっとも素直に表現する品種なんだ」
とシューベルト氏。「アプツベルクはデボンシーファーが主で、薫り高く繊細でスパイシーな味の
ワインが出来る。一方ヘレンベルクはローターシーファーとブラウアーシーファーが混じってい
て、繊細な香りの力強いワインが出来る。そしてブリューダーベルクはシーファーの細かくなっ
た土が主体で、力強くすこし土くさいワインが出来るんだ。」
近年、単一畑の中の最上の一角を別個に醸造・リリースするのが、気鋭の醸造所の流行にな
っているようですが、どう思いますか?と聞いてみた。
「間違いじゃないと思うよ。でも、ウチは今の3区分がワインの個性を分けるベストな選択だか
ら、追従するつもりはないが。区画を分けて収穫することはやってるけど、その年一番いい出
来のワインは、毎年違う区画からとれるんだよ。それに、ヘレンベルクの一番奥の端っこは、
昔フィアテルベルクと呼ばれていたんだけど、それは年貢に収穫の四分の一を差し出すため
の葡萄を育てていた畑で、品質は一番落ちるワインだったんだ。そんな名前を復活させても、
意味ないと思うが、違うかね?」

次に、地下のケラーに降りた。犬たちも勝手知ったる様子で、
暑さの苦手な彼らは僕達の先回りをして、喜び勇んで地下に
続く階段を駆け下りていった。伝統的な1000リットル入りのフー
ダー樽がずらりとならぶケラーは地下水が絶え間なく流れ、か
なり涼しい。今日は特に地上が暑いためか、うっすらと水蒸気
が立ち込めていた。醸造はステンレスタンクと木樽の両方を用
いて行っている。発酵の停止は高圧をかけて行う。二酸化硫
黄も用いるが、必要最小限に留めている。6月上旬、既に瓶詰
めもすべて終えて、ワインは出荷を待つばかりだった。

細い地下通路をくぐって、ボトルの長期保管室へ辿り着く。そ
の奥の一角には19世紀以来のコレクションが眠る、シャッツカ
マーがある。有名な醸造所だけに、フランス革命以来戦争のた
びに、ワインが軍関係者に召し上げられ、未だに残っているの
はほんの数えるほどしかない。その意味でも、まさに宝物だ。
試飲したワインは、以下の通り。

2002 Herrenberg QbA trocken
ミネラルと柑橘のはっきりしたフレッシュな辛口
2002 Abtsberg Kabinett trocken
調和のとれた、エレガントな辛口
2002 Herrenberg Spaetlese halbtrocken
素晴らしいフルーツ感で、酸味が生き生きとしている
2002 Bruederberg QbA
フルーティで、柑橘風味がフレッシュ
2002 Herrenberg Kabinett
ストレートな香り、たっぷりしたフルーツ感で、美味しい。
2002 Herrenberg Spaetelese
完熟した柑橘、蜂蜜の香り、アタックはやや弱いがエッセンス的な上品な甘さ。
2002 Abtsberg Auslese
やや軽めで、シュペートレーゼとの差があまり感じられない。
2002 Herrenberg Auslese Nr. 149
やや貴腐のニュアンスがあり、軽く繊細で複雑。
2002 Herrenberg Eiswein
これも軽めで繊細で複雑、フルーツのコンポート、アフタは長い。
2002 Abtsberg Eiswein
濃密で長いアフタ、複雑。

個人的な印象では、カビネットまではとても上出来で酸味もしっかりした健康なフルーツ感なの
に対して、シュペートレーゼ以上、とくにアウスレーゼでは、瓶詰め後のショックなのか、それと
も収穫時の雨がたたったのか、良年に比べるとどこかしらたよりないような印象を受けた。しか
しそれでも、この醸造所独特のスパイシーなフルーツ感は、どのワインにも共通して魅力的だ
った。

試飲の最中冷たいコンクリートの上に寝そべっていた犬たちは、地上に帰る段になると後を付
いてきた。そしてゴールデン・レトリーバーが何を思ったか、僕にとつぜんすりよってきて離れな
くなった。「い、いったいどうしたんでしょうか」とシューベルト氏に聞くと「私には、彼の考えてい
ることがよくわかるね。」と笑って、僕が手に持っていたパンにあごをしゃくった。試飲のとき齧
っていたものだった。彼のつぶらな瞳に見つめらて、あげたくなってしまったのだが、飼い主の
手前、それは控えた。

地上に帰ると、もとの暑さが待っていた。犬たちは日陰を求めて館の中へ走りこんで行った。
貴重な時間を割いてくださったシューベルト氏にお礼を述べて、帰途についた。到着した時は
よく晴れていた空は、いつの間にか雲で覆われ、ほどなくくぐもった雷鳴がしたかと思うと、雨
が降り始めた。それはやがて豪雨となったのだが、1時間ほどであがり、夕日に照らされた石
畳は、みるみるうちに乾いていった。ヨーロッパらしい夏の夕立だった。


醸造所のHP: http://www.vonschubert.com
訪問可能時間:月〜金 8:00-12:00, 13:00-16:30, 土 9:00-12:00 要予約




2.フォルストマイスター・ゲルツ・ツィリケン醸造所


小高い丘の上にある中世の城塞跡が見下ろすザールブルクは、ちょっとした観光名所であ
る。その町外れにあるジリケン醸造所は、見た目ほとんど普通の住宅と変わらない。ごく普通
の玄関、庭、駐車場が通りに面していて、よほど気をつけて観察しなければ、玄関の扉の脇に
『VDP』のプレートがあることを見逃してしまうだろう。

しかし、その地下には全くの別世界が広がっている。
暗く冷たい空気で満たされたケラーの低い天井には、一面の黴−これがワインの醸造には最
適な環境であることを示すひとつの指標である−が付着し、鼻たれ小僧の鼻水が無数にぶら
さがっているようにも見える。その下に伝統的な1000リットル入りのフーダー樽が並ぶ。

そこでは、樽達の静かな息遣いが聞こえてきそうな気がした。

暗闇の中にうずくまるようにして並ぶ彼らにとって、ここの環境が非常に居心地が良いことが、無言のうちに感じ取ることが出来る。醸造所のケラーはいくつも見ているけれど、そういう印象を受けたケラーは、ここが初めてだ。

(ジリケン醸造所のケラー。天井の黴から水滴がしたたっている。)

「樽ひとつひとつ個性があって、ワインの味も全部違うのよ」
ロンドンへ販売促進のため出張中のご主人に代わり、案内して下さった奥様のルース・ジリケ
ンさんが説明してくれた。ジリケン醸造所のワインは、全てフーダー樽発酵である。樽は数十年
用いられ、長いものでは50年になる。つまり、この醸造所がザールの川向こうから現在の位
置に引越して来てから、ずっと活躍している訳だ。

木樽は、一度醸造に用いられると、清掃の時意外、空になることはない。
発酵・熟成を終えてワインが瓶詰めされ、澱や酒石をこすり落として清掃されたあとは、水に二
酸化硫黄を加えた液体で満たし、次の収穫を待つ。ステンレスタンクの方が清掃もメンテナン
スもはるかに容易で、発酵時の温度管理もしやすいのだが、この醸造所は、ステンレスタンク
に切り替えるつもりは毛頭ない。長年使い続けたフーダー樽のワインを愛し、こだわっている。
彼らにとって、地下に眠る樽達は家族の一員と言っても良いかもしれない。



地上に戻り、アンティークのどっしりとした椅子−これも長年使い込まれているという点では、
樽と通じるものがある−に座って、ワインを試飲した。

2002 Butterfly Riesling QbA feinherb
今年初めてリリースしたキュベ。収穫時の糖度はシュペートレーゼ以上だった果汁に、補糖してアルコールを11.5%ま
で高めている。残糖は22g/Liter。やわらかなミネラル感、白桃のアロマはザール、とくにこの醸造所らしい個性がよ
く出ている。オレンジのアロマも少々。バランス良くやや軽めで、酸味も控えめ、ほどほど甘く、スイスイ飲めそう。高
品質な夏向きワイン。ただ、食事にあわせるには少し残糖が多いような気がする。

ちなみに、バタフライというキュベの名前は、ご主人が醸造所のワイ
ンの個性を一言で表現するときに「蝶々のような Schmettelinghaft」と
言う所にちなんでいる。軽やかに日差しの中を舞う蝶々を思わせる、
軽やかで、しかも複雑なワイン。しかし新リリースのキュベの発案者
は、ルースさんと、ガイゼンハイムで勉強中の娘さんだそうだ。

2002 Buttefly "R" Riesling QbA feinherb
バタフライの上級キュベ。収穫時の糖度は94エクスレ、残糖は24g/Liter。若干濃い
が、ボトルショックのためか、閉じていた。

2002 Saarburger Rausch Riesling Kabinett
まさに蝶々のように軽やかでフルーティ。アプリコット、イチゴのヒント。

2002 Ockfener Bockstein Riesling Spaetlese
シーファーの石の香り、透明感のあるフルーツ、女性的でやや軽め、チャーミング。
(ルース・ジリケンさん)
2002 Saarburger Rausch Riesling Spaetlese
シーファーの石の香り、軽やかで上品な、完熟したフルーツのエッセンス的な甘み。長いアフタ。

2002 Saarburger Rausch Riesling Spaetlese (VDP競売用)
凝縮感があり、深い。香り・味ともに面立ちがはっきりとしているが、やわらかく軽やかで、エッセンス的な甘み、長い
アフタ。

1993 Saarburger Rausch Riesling Spaetlese
約10年間熟成を経たシュペートレーゼで、香りは素晴らしく広がる。まだ若々しさを十分に感じさせ、熟成香はほんの
りと漂う程度。たっぷりした甘みとミネラル。

2002 Saarburger Rausch Riesling Auslese
クリーンな、青リンゴを思わせるアロマ、多面的でニュアンスに富む甘み、赤リンゴの皮、乾燥させたアプリコット。収
穫時の糖度は98エクスレ、10月2週目に収穫。ザール一帯では例外的に早く熟し、近隣のワイン農家をうらやませ
たという。



ちなみに、2002年はけっして恵まれた年ではなかった。
早めの開花に続いて暑さと大雨が交互に訪れ、葡萄には試練となる。9月末には晴天が続い
て順調に熟したのもつかの間、10月初旬にボトリティスが広がり始めた。好天に変われば素
晴らしい貴腐ワインをもたらすボトリティスも、そのまま雨が続くと収穫の大半を使い物にならな
くしてしまう。ボトリティスのついた房を取り除いて収穫を確保するか、好天を待つか決断を迫ら
れた時期であった。

結局、雨は11月の半ばまで断続的に降り続き、ボトリティスのついた房を取り除く判断をした
のは正解だった。このセレクションが、雨が続いた中での収穫にもかかわらず、ワインに凝縮
した風味をもたらしたのだそうだ。

個人的な印象では、2002年産は1999年、2001年産には一歩及ばないが、この醸造所の個性
が良く出た、愛すべきワインと感じた。ここに来たのは2回目で、ルースさんは午後知人の葬儀
に赴かねばならないにもかかわらず、快く応対して下さった。ワインもさることながら、醸造所
の人々もまた、愛すべき人々なのである。

醸造所HP: http://www.zilliken-vdp.de
訪問可能時間:要予約




3.ヴァインホフ・ヘレンベルク醸造所



ジリケン醸造所を訪れた日の午後、僕達はヴァインホフ・ヘレンベルク醸造所があるショーデ
ン村へ向かった。ほとんど無名の村であるが、エゴン・ミュラー醸造所で有名なヴィルティンゲ
ン村の隣村というと、なんとなく位置関係が想像できるかもしれない。唯一の公共交通機関は
鉄道で、各駅停車が一時間に一本だけとまる無人駅がある。そこからほんの5分ほど歩くと村
を通り過ぎて、ザール河の河岸に達する。店らしい店も無く、住人の溜まり場のような居酒屋
兼レストランが2軒と、小さなボーリング場があるだけで、これといって有名な醸造所もなく、観
光客相手の試飲を誘う看板もない。つまるところ、僕達の様なよそ者が訪れる理由は何も無い
村なのだ。

しかしこういう村では、村人から村人へ情報が伝わるのが非常に早い。きょろきょろとあたりを
見回す東洋人の乗った車が通り、乗っていた連中は河の方へ行った、ということが、どうやら
事前に当主のマンフレッド・ロッホ氏の耳に入っていたようだ。約束の時刻が近付いた頃に醸
造所の方へ向かうと、ロッホ氏が手を振りながら僕達の方へ向かってくるところだった。



この醸造所を訪れるのは、2月に続いて今度が2度目である。前回の訪問でロッホ氏のワイン
造りにかける情熱に圧倒されたが、そのときの様子はすでに報告した詳細はこちら)。10年前
にワイン好きの若夫婦がゼロから始めた醸造所で、現在の畑の面積は2.5ha (Schodener 
Herrenberg, Ockfener Bockstein, Wiltinger Schlangengraben)、平均収穫率が35hl/ha前後と低
いこともあり、リリースするワインは年間10000本前後にすぎない。

最初にケラーへ案内して頂いた。この醸造所もジリケン醸造所と同じく、見た目普通の住宅
で、裏手の空き地に大きな車庫のような醸造施設を新築中だ。地下に降りる扉の下の隙間に
フェルトマットをつっこんで外気の進入を防いでいるのは、ロッホ氏らしい念の入れ方だった。
地下に降りると、タイル張りの部屋の壁に沿ってステンレスタンクがならぶ、シンプルで明るく
清潔なケラーである。タンクの容量は小さいもので600リットル、大きなものでも2000リットル
位。畑の区画ごとに分けて収穫、発酵している。容量の小さいタンクの蓋はワインの液面にあ
わせて上下できるようになっており、空気との接触による酸化を極力避けている。以前も報告
した様に、畑の世話から瓶の貯蔵に至るまで、マニアックなほどこだわっている醸造所だ。そ
の様子はワイン愛好家がとっておきのワインを、最適の温度・グラスで楽しもうとする時にみせ
るこだわりと、どこか通じるものがある。

三日後に瓶詰めを控えた2002年産の新酒を、ステンレスタンクから直接試飲させていただい
た。Fass 4, Fass 2, Fass 5は2000リットル入りのタンクのワインで、いずれも辛口。非常に明瞭
にそれぞれの個性が分かれているが、共通しているのは果実とミネラルの力強さ、男性的な
たくましさである。Fass 8とFass 6はそれぞれ800リットル、600リットルのタンクで、どちらかが辛
口のフラッグシップになるという。Fass 6はゴツゴツとして力強く立体的、Fass 8は調和の取れ
た気品を感じる。Fass 6の方がアタックのインパクトはあるが、Fass 8の流れるような気品も捨
てがたい。いずれにしても、見事な辛口リースリングである。

甘口はOckfener Bockstein とSchodener Herrenbergのシュペートレーゼ、地上に戻ってからす
でに瓶詰めしたWiltinger SchlangengrabenとSchodener Herrenbergのアウスレーゼを試飲させ
ていただいた。いずれも濃厚で、2001年産にまったく引けをとっていない。収穫期の雨の影響
を微塵も感じさせない、くっきりとした濃いフルーツで、Wiltinger Schlangengrabenはヴィルティ
ンゲン村のVan Volxem醸造所のフルーツ感に非常に似ていた。Schodener Herrenbergのアウ
スレーゼはまったりと濃厚で、申し分なし。無農薬栽培にもかかわらず、雨勝ちだった収穫期
の黴や腐敗の影響を受けなかったとは思えないのだが、晴れ間を縫って出稼ぎ労働者ではな
く地元の熟練作業者約12人で行った収穫の成果は、まさしく賞賛に値する。

ここのワインの味わいの力強さは、ロッホ氏が隅々まで目の届
く範囲、妥協しないで手間をかけられる規模だからこそ可能と
なる品質なのかもしれない。昨年から大手ワイン商との取引が
はじまり、およそ12あるタンクのうち、すでに2タンクは売約済
みである。600リットル入りタンク2つのシュペートレーゼ甘口も
買い取りたいという打診があったが、昔からワインを買ってくれ
ている人たちのことも考えると、どうするか迷っているところだそ
うだ。醸造所の規模を大きくしないのか、と聞いてみると、それ
は考えているが、素晴らしい畑が売りに出ることはなかなかな
いからね、という。
すでにワインは順調に売れており、収入に困ることもない。需要が供給を上回っているのだから、ワインをもっと高く売ることも出来るかもしれないが、ウチのワインを本当に気に入ってくれている人や、単なるお金持ちではなくて、ワインが好きな人に飲んでもらいたいから、これ以上高く売るつもりはない、という。ちなみに、シュペートレーゼ辛口が8.50〜12ユーロ、甘口が12〜15ユーロ前後である。ユーロが導入される以前は高めに感じたが、現在では高品質なものなら当然の価格になっている。

(身振り手振りを交えて語るマンフレッド・ロッホ氏。情熱家だ。)

願わくば、将来よりよい葡萄畑を買い足して、この品質のワインをもっと造って欲しいと思う。こ
このワインは、ザールのワイン、あるいはドイツワインのもつ大きなポテンシャルを感じさせる。
これで、さらに気品のあるワインを生む極上の畑を手がけさえすれば、偉大なザールのリース
リングが、また一つ生まれるのでは.....そんな期待を抱かずにはおれない醸造所である。今後
の発展に大いに期待している。

醸造所HP:http://www.lochriesling.de
訪問可能時間:要予約




4.Max. Ferd. リヒター醸造所


醸造所訪問は、まず予約をとることから始まる。
いきなり電話をかけてもいいのだが、最近はまずメールで都合を聞くことにしている。すぐに返
事をくれるところもあるが、なしのつぶての場合もある。今回マックス・フェルディナンド・リヒター
醸造所にもメールで都合を問い合わせたところ、オーナーのディルク・リヒター氏から折り返し
次の様な返事が来た。

「ちょうどその日、イギリス出張から飛行機でドイツに帰る。午後2時ころ醸造所に到着予定な
ので、3時でどうだろうか?」

こちらは一介のワイン好きにすぎないのに、海外出張から帰国当日に訪問客を受け入れてく
れるとは、なんと誠意にあふれた回答だろうと、感激した。しかしお疲れのところにお邪魔して
も申し訳ないと思い、午前中に醸造長の奥さんで、勤続30年以上という販売担当のハウトさん
に応対していただいた。

この醸造所はヴェーレン村からブラウネベルク村にかけて、約15haの葡萄畑を所有している。
中部モーゼルでは、比較的大きいほうだ。所有する葡萄畑が広ければ、それに相応した生産
設備が必要となる−地下のケラーにならぶ伝統的なフーダー樽は、およそ200樽にも及ぶ。
収穫はすべて、この木樽で発酵・熟成され、シュペートレーゼ以上は樽ごとに瓶詰めされる。気
軽に楽しむタイプのワインは、複数の樽から一度大型のステンレスタンクに移され、瓶詰めま
で数ヶ月熟成する。

秋、収穫が醸造所に持ち込まれ、樽が果汁で満たされ発酵が
始まる。ケラーはボコリ、ボコリという、糖分が分解されて発生
する二酸化炭素のくぐもった音が木霊するようになる。樽ひとつ
ひとつに個性があり、ある樽では激しく、ある樽では静かに発酵
がすすむ。しかし、あまりにも激しく発酵がすすむと、香りの少な
い、うすっぺらなワインになってしまう。それを避ける為には、発
酵温度を低くしなければならない。ステンレスタンクならば、温度
調節も容易だが、木樽はひと工夫必要である。この醸造所で
は、5度前後の冷却水が流れる細くしなやかなパイプを、樽の
上部にある穴から樽の中でらせんを描くように通して、発酵温
度を14〜16度前後に下げている。樽を通って温度の上がった
水は、地上の冷却機で再び5度前後に冷やされて、パイプを循
環する。醸造長と見習い職人は、発酵が終わるまで毎日全ての
樽のPH値と温度を管理しなければならない。発酵が終わってし
ばらくすると、別の樽に移す澱引きが行われる。その際、酵母
を除くフィルターを通すが、これは出来る限りワインに与える影
響の少ない装置を用いている。そして瓶詰めまで樽熟成され
る。その期間は、今は長くて数ヶ月であるが、昔は数年のことも
あったという。
(ハウト夫妻。左が旦那さんで醸造長。30年以上このケラーで毎日働いている。)

ジリケン醸造所の所でも触れたが、木樽は数十年にわたって繰り返し醸造に用いることが出
来るけれど、メンテナンスが大変だ。ケラーは湿度ほぼ100%で、10度以下の低温とはいえ、黴
が繁殖しやすい。壁や天井ならば、それは醸造に理想的な環境を示すバロメーターでもあるの
だが、樽につくと、ワインを黴臭くしてしまう。だから2週間に一度は樽の表面を掃除する。小さ
い醸造所ならば大したことはないかもしれないが、広大なケラーにならぶ200の樽の世話をす
るとなると、相当な大仕事だ。

醸造が終わり、ワインが樽から瓶に移されると、樽を綺麗に掃除しなければならない。酵母の
死骸である澱−ドイツ語ではヘーフェという−どろりとした、いささか臭いしろものを、樽の底か
ら取り除き、高圧の水で酒石を洗ったあとは、二酸化硫黄とレモン酸を加えた水で樽を満た
す。二酸化硫黄は水の腐敗を防ぎ、レモン酸は酒石を溶かし、水は樽の乾燥を防ぐ。そして秋
の収穫を待つのだ。

瓶詰めは、僕達の訪れた6月にはほとんど終わっていた。今は、瓶詰めが終わった矢先から、
早々に販売されるが、10年以上前は、少なくとも9月までは寝かせて、それから出荷されたも
のだ、という。「消費者は、我慢が足りなくなったよ」と、案内してくれたハウトさん。

マックス・フェルディナンド・リヒター醸造所の歴史は1680年まで遡る。その当時は食品とワインの販売を手がけていたのだが、1881年からワインの醸造に専念。代々途切れることなく家業は受け継がれ、今日に至る。僕達が訪れた醸造所の建物の外観は、1881年に建築された当時に撮影された写真と変わっていない。また、その建物の内部は、まるで時の流れが止まっているような趣がある。ギシギシと音を立てる木の床、せまい木製の階段、2階にある事務所の雰囲気は、第二次大戦、あるいはそれ以前から、ほとんど変わっていないのではないだろうか。唯一、机の上に置かれたパソコンのモニターが、いまが21世紀であることを示していた。
(試飲中に顔をのぞかせて下さった先代のホルスト・リヒター氏。ご隠居さんだが、醸造所には毎日来ている。)

事務所の奥にある試飲室−ここもまた、20年前に撮影された写真と少しも変わっていない−
で、以下のワインを試飲させて頂いた。

2001 Graacher Himmelreich Riesling Spaetlese trocken
凝縮された香り、パイナップルのヒント、ミネラルと酸がしっかりしている。
2001 Brauneberger Juffer Sonnenuhr Auslese trocken
たっぷりとしたスケール感のある口当たり、ミネラルがボディを下支え。
2001 Braueberger Juffer Riesling Spaetlese halbtrocken
やや素朴な印象を受けるが、フルーツ感のあるアロマは快適。
1995 Muehlheimer Sonnenlay Riesling Spaetlese
フレッシュで快適な酸味、たっぷりしたフルーツ感、軽く熟成香があるが、まだ入り口。
2002 Brauneberger Juffer Sonnenuhr Riesling Spaetelese
生き生きとしてフレッシュ、瓶詰めしたばかりのためかやや軽めに感じる。
1997 Wehlener Sonnenuhr Riesling Auslese
たっぷりとして、口の中で広がるアロマ、フレッシュなフルーツ感に、心地よく長く続くアフタ。

クラシックなスタイルの、典型的なモーゼル中流のリースリングである。
濃厚というには一歩足りないが、軽いようでいて腰の据わった、意外にタフな寿命の長いワイ
ンだと思う。

タフ、というには、訳がある。帰り際、「試飲したワイン、よかったらもってく?」というありがたい
お申し出−貧乏学生なのを見越したのだろう−にとびついて、最初の2本の辛口を頂いてしま
った。プラスチックの栓をしてくれたのだが、外は30度を越す真夏の暑さ。しかも車のトランク
に入れて移動したので、ワインにはかなり過酷な環境だったはずだ。しかし、翌日冷蔵庫から
出して飲んでみると、意外にもヘタっていなかった。まだまだフレッシュでしっかりして、十分に
楽しめた。「タフだな、お前」と、ワインを眺めて思わず呟いてしまった。

見学来訪歓迎の、とても感じのいい所だった。ワインも醸造所訪問も、おすすめである。


醸造所HP:http://www.maxferdrichter.com
訪問可能時間:月−金 9:00-18:00 土 9:00-13:00 その他の時間は要予約




5.メンヒホフ & Joh. Jos. クリストッフェル・エルベン醸造所


リヒター醸造所を出ると、真っ青な夏空高くに太陽が昇り、気温はますます上昇を続けていた。
次の目的地所はユルツィヒ村にあるメンヒホフ醸造所。2001年産から隣村のJ.J.クリストッフェ
ル・エルベン醸造所のワインも造っている所だ。

J.J.クリストッフェル・エルベン醸造所は、所有する畑は2.35haと小さいものの、根強いファンを
持っている。例えばゴー・ミヨにならぶワインガイドの執筆者である、ゲアハルト・アイヒェルマン
氏もその一人と言ってよいだろう。2001年から毎年改版されている彼の本では、クリストッフェ
ル・エルベン醸造所は常にモーゼルでもっとも素晴らしい醸造所のひとつであり、どのワインも
「すばらしくピュアでフルーティで、魅惑的に美しく口当たりが良い」のだそうである。

しかしオーナーだったハンス・レオ・クリストッフェル氏は、65歳を迎えたのを機に、VDPの同
僚であるロバート・アイマエル氏のメンヒホフ醸造所に、2001年産からワイン造りと経営を委託
し、引退した。娘さんが2人いたのだが、それぞれ医者と弁護士に嫁いでしまい、後継者がな
かった為である。しかし引退とは言っても、畑にも出れば、醸造にも口を出すし、試飲会にも現
れる。つまり、経営や販売といった雑用からは手をひいて、ワイン造りだけに専念できる、ある
意味気楽な、恵まれた環境にいらっしゃる御様子だ。

クリストッフェル醸造所の畑の葡萄樹は、大部分が接木しておらず、古いものでは樹齢50歳。
収穫時のセレクションを厳しく行い、伝統的なフーダー樽で葡萄に自然についている酵母によ
り発酵を行う。この造り方は2001年産以降も変わっていないとは言え、醸造はメンヒホフ醸造
所のケラーに移っており、それがワインの個性に影響を与えない筈は無いのではないかと、素
人目には思えてしまうのだが、この醸造所の昔のワインは飲んだことが少ないので、僕にはな
んとも言えない。



メンヒホフ醸造所の敷地に入ると、ワインの瓶がラベル貼り機を流れる、ガチャガチャという音で騒々しかった。タイミングよくアイマエル氏が通りかかり、庭の一角に急ごしらえで造ったような試飲スタンドに導かれ、冷蔵庫からクリストッフェルのワインをカウンターにずらりと並べると、じゃあ楽しんでね、と言うなりエチケット貼りの作業に行ってしまった。客間に通されて造り手さんと会話しながらの試飲も刺激的だが、多かれ少なかれ気をつかう。それに比べるとずいぶんと気楽なスタイルで、好きなだけワインに集中できた。もっとも、炎天下、気温30度前後の屋外。ワインよりも冷たい水が美味しく感じられそうな状況だったけれど。

(左:夏空の下のメンヒホフ醸造所。ホテルとしても営業している。)

Weingut Joh. Jos. Chrstoffel Erben
2002 Uerziger Wuerzgarten Riesling Auslese trocken
微発泡、酸とミネラルの明確なフルーツ感、しっかりとした濃いめの辛口。
2002 Uerziger Wuerzgarten Riesling Kabinett
やや濃いめでしっかりしたカビネット。複雑さはまずまず、アフタは長い。
2002 Erdener Treppchen Reisling Kabinett
上のユルツィガー・ヴュルツガルテンの方が、若干飲みごたえがある。
2002 Uerziger Wuerzgarten Riesling Spaetlese
フルーティでやや輪郭がぼやけているが、噛み味わうと味が出てくる。濃いめ。
2002 Erdener Treppchen Riesling Spaetlese
瓶詰め直後のショックなのか、少し大人しい感じ。それ
でもエッセンス的な甘さは魅力的。
2002 Erdener Treppchen Riesling Auslese**
微発泡、ほんのわずかにボトリティス香。濃いめで複
雑、アフタも長いが、どこかしら弱さを感じる。エッセン
ス的甘み。
2002 Uerziger Wuerzgarten Riesling Auslese***
香りまだ閉じているが、ポテンシャルを感じる。蜂蜜ぽ
い完熟したフルーツのエッセンス、複雑でアフタも長い。
Weingut Moenchhof
2002 Erdener Praelat Riesling Auslese
エレガントで広がりのある、エッセンス的甘み、調和のとれたピュアな甘口。
1001 Uerziger Wuerzgarten Riesling Auslese
エッセンスの塊。濃厚で複雑、フルーツ感たっぷりでミネラルもしっかり。長いアフタ。



それにしても、この評判の高い醸造所のワイン造りを引き受けることは、アイマエル氏には思
い切った決断だったのではないかと思う。もしもクリストッフェルのワインが以前より落ちたな
ら、それは彼の責任にされかねないからだ。しかし、2001年産、2002年産の印象からすると、
すべて順調に行っている様子だ。クリストッフェルのワインの評判は相変わらずで、メンヒホフ
のワインはピュアなフルーツ感がいくらか明確に、濃厚になったような気がする。もっとも、アイ
マエル氏はこのシナジーエフェクトについては、「そうかなぁ、そう思う?」と、いつもの笑顔を浮
かべただけで、むしろ、メンヒホフのワインは昔から変わっていないよ、と言いたげな様子だっ
た。


醸造所HP(メンヒホフ醸造所):http://www.moenchhof.de
訪問可能時間:月〜金 9:00-20:00, 土日 11:00-20:00




6.クリュセラート・ヴァイラー醸造所


日本から遊びに来てくれた知人との醸造所めぐりも、いよいよ最後の一軒となった。3月に訪
れたばかりだが、前回の訪問の印象が良かったので、彼らに紹介したかったのと、2002年産
の試飲が目的である。

トリッテンハイム村の橋の下に車を止めると、クリュセラート・ヴァイラー醸造所は目と鼻の先
だ。この醸造所はホテルも経営しており、川縁の散歩道から洋洒な邸宅といったふうの建物ま
で、緑の芝生が続いている。この庭は、言ってみれば海抜ゼロメートルである。川面よりわず
かに高いだけなので、ほぼ毎年程度の差こそあれ訪れる洪水−ドイツ語ではホッホヴァッサー
−では、地下にある醸造施設は水浸しになってしまう。もちろん、排水ポンプなど浸水防止対
策はしているのだろうが、しかし96年だったかには、ケラーが実際水中に沈み、醸造に使って
いる木樽がプカプカ浮いて動かないよう、天井からつっかえ棒をして押さえつけたそうだ。



庭に面した階段を上がり、以前春の日差しの中で
試飲したテラス出ると、当主のヘルムート・クリュセ
ラート氏が先客を送り出す所だった。
「やぁ。よく来たね」
「お忙しいところ、どうもありがとうございます。お客
さんでしたか」
「あぁ、そんなところだ。今日は外で試飲するのは暑
過ぎるから、部屋の中にしよう。」
ブラインドを半分閉じた室内は、確かに涼しかった。ホテルのお客さんが集まってくつろげる居
間の様な場所で、隣の部屋には誰が使うのか、固定式自転車が置いてあった。おそらくヘル
ムート氏ではないだろう。葡萄畑の急斜面で、足腰は十分鍛えてあるはずだ。それとも、自宅
で鍛えなければ耐えられないほどの、葡萄畑の仕事は重労働なのだろうか?

「さて、何を試飲するかね?」
「2002年産の辛口を何種類か、まずお願いします。」

ヘルムート氏はうなずくと、一度部屋を出て行き、しばらくしてボトルを手に戻ってきた。まずは
2002年のHC trocken。この醸造所の名刺代わりと言ってよい、充実した辛口白ワインだ。HC
はご主人と奥様(ヒルデ)のイニシャル。黄色い柑橘のヒントに綺麗な酸味。香りもすでに開い
ている。う〜ん、美味しい。やはり美味しい。

次に2002 Riesling Spaetlese trocken, Trittenheimer Apotheke。2002年産はシュペートレーゼ
以上にだけ畑名をつけて、カビネット以下は単にカビネットなりHC、あるいは1リットル瓶に詰
めてグーツ・リースリングと名乗っている。凝縮したフルーツのアロマ、黄色い柑橘のヒント。酸
味がすこし浮いているような気がするのは、瓶詰め直後のせいか。

どこの醸造所のワインでもそうだが、瓶詰め直後のワインはあまりパッとしない。ワインが疲れ
ているかのように精彩を欠いていたり、妙に苦味が強く感じられたりすることが多い。こうした
状態は、ヘルムート氏によれば大抵2,3ヶ月で回復するという。「最近の消費者は、ガマンが
足りなくなったよ」という、午前中に訪れたリヒター醸造所のハウトさんの言葉が思い出される。
昔、ワインは収穫の翌年9月以降に売りに出されたものだった。ワイン本来の持ち味を楽しむ
には、そのくらい待つべきなのだ。

辛口の3本目は2002 Riesling Spaetlese "S" Trittenheimer Apotheke。辛口のなかでもっとも
出来のよいキュベである。このほかにも"Alte Reben"という、樹齢70歳以上の樹から造ったも
のもあるが、「冷えてない」ということで試飲できなかった。残念。しかし"S"の方が"Alte Reben
"よりもほんのわずかばかりだが、高い。

凝縮感とともにグラスの中で広がる柑橘のアロマ、口の中ではフルーツとミネラルが溶け合っ
た、分厚い舌触りのボディ。飲み応えあり。新酒にしては比較的濃い金色を帯びた色合いは、
発酵に長期間かかった為だという。

辛口の次は「フルフティヒ・トロッケン」−フルーティな辛口−である。ヘルムート氏はハルプトロ
ッケン(中辛口)という呼び方を避けて、ドイツワイン法でのカテゴリーからすると中辛口にあた
るワインを、こう呼んでいる。しかし、ドイツワイン法で規定されていない呼称なので、ラベルに
記載することは出来ない。消費者は、ラベルを縦に走る帯の色で、辛口・フルーティな辛口・甘
口を見分けることになる。

2002 HC Fruchtig trocken
アフタにまで長く続くフルーツ感(熟した黄色い柑橘)とミネラル、力強い。

2001 Riesling Auslese Trittenheimer Apotheke (Fruchtig trocken)
少しヴァニラのヒントのある、甘い香り。蜂蜜。舌の上ではまず凝縮感のあるフルーツ−ライ
チ、洋ナシ−が感じられ、ミネラルがボディの充実感を造っている。濃厚でアフタも長い。

そして最後に、甘口である。
2002 Riesling Spaetlese Trittenheimer Apotheke
やわらかい口当たり、ピュアな甘み、白桃のヒント。しかし、ボトルショックなのか、やや大人し
い。ここのシュペートレーゼは、もっと生き生きとした濃厚さが持ち味。この弱さが2002年収穫
時の雨によるものかどうかは、よくわからない。

以前も書いたように、2002年の収穫はアイスワインを除いて10月25日から11月21日まで続いた。10月上旬から下旬まで、ずっと雨が降っていたので、おそらく雨が上がるのを待って、収穫を始めたのだろう。思い切った遅摘みである。結果、収穫のほとんどはアウスレーゼ以上の糖度だったそうだが、傷んだ房をえり分ける入念な、根気の要る収穫作業となった。こうした作業は、醸造家だけでなく、収穫作業にあたる作業者−多くはポーランドからの出稼ぎ労働者−の腕と熱意が要求される。長年この醸造所に収穫作業に手伝いに来ている人たちとの、十分な意思疎通と信頼関係があってこそ、素晴らしいワインが出来る。2002年の様に難しい年は、特にそれが必要とされた年であったのではないだろうか。


(写真はケラーでのヘルムート・クリュセラート氏)

2002 Riesling Spaetlese** Trittenheimer Apotheke
完熟イチゴの甘みのエッセンス、白桃、パイナップル、たっぷりとして濃厚な甘口、素晴らしく長
いアフタ。

2001 Riesling Auslese** Trittenheimer Apotheke
香りからすでにクリーミィで、完熟みかんのヒント。舌の上で蜂蜜、凝縮感のある果実味が口い
っぱいに広がり、長く香り立つ。アフタも素晴らしく長い。



僕個人としてはイチオシで、アイヒェルマンのワインガイドでも非常に評価が高いのだが、なぜ
か日本では唯一、ワインフォーラム・ジャパンという北九州にある個人経営の輸入業者が扱っ
ているという。2001年産は甘口シュペートレーゼが少量−といっても100本以上−日本向けに
輸出されている。先日、アメリカにも出荷したそうだ。アメリカでの評価は、日本での扱いに影
響することが多いとは、知人から聞いた。どうなるか、今後が楽しみである。


醸造所HP:http://www.cluesserath-weiler.de
訪問可能時間:要予約

(2003年6月)




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