Kaiserstuhler Winzergenossenschaft Ihringen (Ihringen/Baden)
Weingut Dr. Heger (Ihringen/Baden)
Weingut Bercher (Burkheim/Baden)
Weingut Bernahrd Huber (Malterdingen/Baden)
ドイツの13ワイン生産地区の中で、バーデンはもっとも南北に長く、ライン河沿いに400km近く 伸びている。その中心地のひとつといえるのが、大学町として有名なフライブルクから、ライン 河方向に電車で20分程のところにある、カイザーシュトゥール地区だ。7月下旬、僕達はこの 近辺にあるいくつかの醸造所を訪れることができた。 カイザーシュトゥールは、ライン河とフライブルクの間にある、段々畑になっている葡萄畑や果 樹園が広がる小高い丘と谷間が入り組んだ、ドイツで最も温暖な気候に恵まれている一帯で ある。『皇帝の椅子』という意味の地名の由来ははっきりしない。あたりの地形を椅子の肘掛 や背もたれに見立てるのは、無理がある。今後の宿題にしよう。 1.カイザーシュトゥール葡萄生産者協同組合イーリンゲン(イーリンゲン村) Kaiserstuehler Winzergenosenschaften Ihringen e.G. http://www.ihringerwein.com イーリンゲンの無人駅に降り立つと、すぐ目の前に建っている工場の様な建物が、南バーデン 最大という葡萄生産者協同組合である。1924年に設立され、約960の農家が加盟し、380ha以 上という広大な葡萄畑の収穫から、毎年約350万本のワインを市場に送り出している。 加盟している葡萄農家は小規模農家が大半である。村に葡萄畑を持っていて、収穫を組合に 持ち込むと、葡萄品種と糖度、重量によって価格が算定され、代金が支払われる。その収穫 をワインに仕立て、販売するのが組合の仕事である。 地上の設備もルーヴァーの葡萄生産者協同組合−組合員はわずか13名−に比べると、桁違 いに大きいが、クレーンや圧搾設備を見ると、おそらくここ20年くらい変わっていない。従業員 のタイムカードや通りすがりに見える事務所の雰囲気は、まるで70年代を舞台にした映画の1 シーンのようだ。
ツアーのあとは試飲である。ワインは、どれも安定して上質だと思う。シュペートブルグンダー の赤の生産量が最も多く、35%を占める。ついでシルヴァーナー(20%)、ミュラー・トゥルガウ (19%)、ルーレンダー(= グラウブルグンダー)(13%)と続く。特に"IWS"と称している、収穫量を 55hl/haまで絞ったセレクション・シリーズは調和のとれており、とてもいい印象を受けたが、価 格も一流醸造所並みと、やや高めに感じられた。全部で9種類試飲。確かにどれもバランス良 く綺麗にまとまっているが、お買い得感はそれほど無かった。 ワイン以外でちょっと欲しいな、と思ったのが、バーデンワインのマスコットである『お日様ちゃ ん』人形。でもシュタイフ社製のはなんと62ユーロもして、協同組合のどのワインよりも高価。う 〜ん、高い。家族連れで見学ツアーに参加した供が値段を聞いて、がっかりしたようにうなだ れて去っていったのが、ちょっとかわいそうだった。 2. Dr.へーガー醸造所(イーリンゲン村) Weingut Dr. Heger / Weinhaus Heger http://www.Heger-Weine.de 協同組合の試飲を終えたあと、昼食後にDr. へーガー醸造所に向かう。 ここのは実をいえば一昨年一度訪れたことがある。試飲所があり、予約なしでも訪問できる気 軽な所だが、モーゼル以外はこうした形態をとっている醸造所が多いらしい。呼び鈴を押し、し ばらくすると中から人が出てきた。 この醸造所のワインには、少し思い入れがある。ドイツへ留学に立つ前夜、しばしの別れのワ インとして家族と開けたのが、この醸造所のシュペートブルグンダー"Mimus"だったのだ。生産 年は今でははっきりと覚えていないが、たぶん1995年だったと思う。ドイツワインにしては思い のほかしっかりとしたピノ・ノアールで、ドイツでの経験を経て、このワインのように綺麗に熟成 できれば、と願った。 前回の訪れたときは、試飲の終わりごろに偶然、オーナーのヨアキム・ヘーガー氏が試飲所に 顔を出した。とっさに「すいません、一緒に写真をとって頂けますか?」と聞いたところ、二つ返 事でOK。「ここじゃなんだから、ケラーへ行こう。」と、思いもかけず地下のバリック樽の積み重 なるケラーへ通されて、研修中の若者にカメラを渡して、記念撮影。シャッターがおりる直前、 彼は僕達に肩をまわしてスクラムを組んだ。そのときシャツを通して感じられたヘーガー氏の 体温の暑さは、ケラーのヒンヤリとした空気と相まって、いまだに忘れられない思い出である。 今回は残念ながらヘーガーさんは現れなかったけれど、ワインは前回同様、思う存分試飲出 来た。
この醸造所はバーデンの濃い目の辛口ワインの先駆者である。1982年に初めてトライしたバリ ック仕立てのシュペートブルグンダーは、蒸留してスピリッツにするしかないほどひどいワイン だったそうだが、爾来20年以上にわたって精進を重ねてきた。1986年には契約農家の収穫を 用いるヴァインハウス・ヘーガーの経営を開始。本家ドクター・ヘーガーよりも割安だが、品質 的には決してひけをとらないワインをリリースしている。1997からは、さらにボッティンゲン村の フィッシャー醸造所の経営もはじめて、現在ヘーガー氏が責任を負う葡萄畑の面積はおよそ 55haに及ぶ。 今回の試飲の印象からは、2001 Weissburgunder***がくっきりとして面立ちのはっきりした、見 事な出来栄えだった。バーデンの辛口白の面目躍如。お買い得品はWeinhaus HegerのVitus の赤。12.20Euroを安いと感じさせるだけの説得力がある。 いずれにしても、バーデン最上の実力を持つ醸造所の一つであると思う。 3. ベルヒャー醸造所(ブルクハイム村) Weingut Bercher (Burkheim) http://www.germanwine.de/weingut/bercher
ここのワインと最初に出あったのは、一昨年のマインツで開催されたVDPの試飲会だった。ド イツ全国から著名醸造所が集まった中で、唯一バリック仕立てのカベルネ・ソーヴィニオン− ボルドー、カリフォルニア、チリなどではメジャーだが、ドイツでは稀にしかみられない−を提供 していて、濃厚でいい出来栄えだった。
『好奇心』は、バーデンの気鋭の造り手のキーワードであるが、それは同時にまた、生産効率 の悪さとリスクを背負うことの同義語でもある。例えばバリックひとつとっても、決して安くないう えに3回使えばその効果はほとんどなくなるという。しかも収穫量を落として凝縮した果汁を用 いなければならないし、澱引きや目減りの補充や、その他色々手間ひまがかかる。カベルネ・ ソーヴィニヨンなんていう、他の醸造所が手がけていないような品種を扱うとなると、栽培から 収穫・醸造に至るまで、実験の連続といっても過言ではないだろう。それでも挑戦して、見事な ワインに仕立ててしまうのが、バーデンの気鋭の造り手達であり、その心意気に報いるだけの ポテンシャルを持っているのが、バーデンの気候と土壌なのかもしれない。 試飲させていただいたのは、以下のワイン。 1. 2001 Burkheimer Feuerberg Weisser Burgunder Spaetlese trocken 調和がとれたフルーツ感、やや軽くさっぱりとして、食事にあわせたい。☆☆ 2. 2001 Burkheimer Feuerberg Weisser Burgunder Spaetlese trocken "Grosses Gewaechs" 重心が低く、懐の深い、アロマティックな辛口白。☆☆☆ 3. 2001 Burkheimer Feuerberg Grauer Burgunder Spaetlese trocken W.B.よりも中身の詰まった感じ、落ち着いている。☆☆ 4. 1999 Jechtinger Eichert Grauer Burgunder Spaetlese trocken 金色、香りが広がる、丸くまとまってバランスの良い。☆☆+ 5. 2001 Jechtinger Eichert Grauer Burgunder Spaetlese trocken 若々しくしっかりしており、飲み応えのある。☆☆
バランス良く、割と凝縮感があり、実力を感じさせる。5000Literの大樽で仕立てたもの。☆☆+ 10. 1999 Berchers Spaetburgunder QbA trocken Barrique 濃厚。なんと28ヶ月のバリック熟成。☆☆☆ 11. 2001 Buerkheimer Feuerberg Spaetburgunder Kabinett trocken クリーンでバランスの良いシュペートブルグンダー。お買い得品を期待したのだけれど、もう一歩。☆☆ 12. 1998 Sasbacher Limburg Spaetburgunder QbA trocken Barrique 22-24ヶ月のバリック熟成。最もバランス良く深みがあり、今飲んで美味しい。☆☆☆+ 13. 2000 Sasbacher Limburg Cabernet Sauvignon QbA trocken Selektion Barrique 濃厚な黒いベリー、タンニン、新世界のカベルネを彷彿とさせる。フルーツ感に広がりもあるが、アフタの引き方はや やあっさりしている。☆☆☆ 14. 1999 Sasbacher Limburg Cabernet Sauvignon QbA trocken Selektion Barrique 非常の濃厚、噛み味わうことのできる黒いベリー、酸味とタンニンの骨格もしっかりしており、アフタも長い。見事なカ ベルネ・ソーヴィニヨン。☆☆☆☆ 以上、当日訪問直前に電話をいれて、なんと14種類も試飲させて頂いた。これほど快く色々と 試飲させてくれる所は、ドイツに醸造所は無数にあるといえども、稀である。 ステンレスタンク、約5000Literの樫の大樽、そしてバリックと3種類の容器を使い分けている が、いずれも調和がとれており価格相応。グラウブルグンダーはヴァイスブルグンダーよりアロ マティックてバランスが良いが、売り切れて今回試飲出来なかった1999 のバリック仕立てに比 べると、2000年産は若干あっさりめ。 逆に良い意味で期待を裏切ってくれたのが、2001のバリック仕立てのシャルドネ。見事としか 言いようの無いフルーツとヴァニラ、アーモンドの調和で、濃厚、アフタもすこぶる長い。ブルゴ ーニュとは異なるタイプのシャルドネで、ある意味ドイツらしい、黄色い柑橘のフルーツ感が前 に出た辛口。完成度は非常に高いと思う。 シュペートブルグンダーは、いずれも濃いめでバランスが良い。最も深みがあるのは1998のバ リック仕立て。しかし値段も相応。残念なのが、1999のアウスレーゼ・トロッケンが売り切れて いたことか。このワインのスケール感の大きさは、今まで飲んだピノ・ノアールの中でも最高の 部類に入る。 カベルネは、どちらも噛み味わうことが出来るほど濃縮感があり、とうていドイツの赤とは思え ない。ただし、値段も若干高め。チリカベの特級キュベに比べれば、ドイツでは安いけれど、国 際市場ではどうだろう。素晴らしく濃厚で美味しいカベルネ・ソーヴィニオンなのだけれど。 試飲を終えて、僕達はご機嫌で再び駅までタクシーで帰った。そこがブライザッハだったか、イ ーリンゲンだったかよく覚えていないのは、やはり飲みすぎたせいだろう。 4. ベルンハルト・ヒューバー醸造所(マルターディンゲン村) Email: weingut-huber-malterdingen@t-online.de ベルヒャー醸造所を訪れた翌日、かねてからの念願であったヒューバー醸造所に向かった。 昨年ここのシュペートブルグンダーを初めて試飲したとき、素直に驚いた。ドイツらしくないので ある。僕のイメージだと、ドイツではどんなに良く出来た赤でも、どこかしら素朴で朴訥とした趣 があり、土の香りがする。しかし、ここのシュペートブルグンダーは普通のキュベから特級ま で、格付けが高くなるほど奥行きとスケールが膨らむが、一貫してブルゴーニュの赤と見まごう ような、繊細で気品の漂う、魅惑的な香りが広がり、土臭さを感じさせない。どんな所で造られ ているのか、是非一度訪れてみたかった。 フライブルクからおよそ20分ほどでアウトバーンA5を降りて、長閑な田園地帯を少し行くと、マ ルターディンゲン村に入った。ドイツのありふれた小さな村で、メインストリートに個人商店が軒 を連ね、小さな広場がある。村に入ってすぐの所に『ヒューバー醸造所はこちら』という小さな標 識が、案の定あったので、それに従ってゆっくり走らせていたが、すぐに村を抜けて、トウモロ コシ畑の農道に入ってしまった。
中からすぐに奥さんのバルバラ・ヒューバーさんと犬のザシャが現れて、僕達は2階にある試 飲室に通された。階段をあがる途中の窓から、三角形に積み上がったバリックや、ピカピカに 磨かれた醸造タンクのならぶ空間が見える。
「ウチの醸造所は全く新しいんです。だからかえって、全く新しい何かを作り出す可能性が与え られているんですよ。」かつてヒューバー氏は、ワインジャーナリストに語ったという。物静かで 感情をあまり表さないが、生来好奇心旺盛な彼は、成功している同僚から学ぶだけではなく、 自分の納得のいくまで実験を重ね続けたそうだ。
試飲させていただいたワインは以下の通り。 2001er Malterdinger Binenberg Spaetburgunder Rotwein クリアで深く、くっきりとした赤いベリー系のアロマ。力強いフルーツとタンニン。わずかにトースト、バター。"シュペー トブルグンダー"ではなく、"ピノ・ノアール"。☆☆☆ 2000er Spaetburgunder Rotwein "Alte Reben" バリック熟成18ヶ月、樹齢20-40年からの収穫。38hl/ha。繊細な気品と奥行き・広がり。 フィネスに満ちている。アフタは綺麗に長く続く。☆☆☆+ 2002er Weisser Burgunder trocken クリーン、フレッシュな青リンゴの香り、調和がとれていて複雑、アフタにミネラル。☆☆ 2002er Grauer Burgunder trocken ヴァイスブルグンダーがカッチリとまとまっているのに比べると、ややあっさりして感じられる。☆☆
シルヴァーナーとグラウブルグンダーの交配品種であるフライザマーと、ヴァイスブルグンダーのブレンド。12ヶ月バリ ックで熟成。口当たりのやわらかくたっぷりしたボディ、独特のフルーツ感とミネラルが調和している。個性的。 ☆☆+ 2002er Muskateller 生き生きとした華やかな甘いアロマ、キレのいいフルーツ感。☆☆ なんだかんだ言って、試飲を終えて醸造所を後にしたのは午後1時半ころになっていた。 規定の訪問受付時間を曲げて、快く応対してくださったヒューバーさんに心から感謝です。
(2003年8月)
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