11月下旬、モーゼルのメトロポリス(と地元の人は言う)トリアーで、『リースリング・グランプリ』という一大イベントが
開催された。今年竣工したばかりの多目的ホール、アレーナ・トリアーで、世界各国から集めた辛口リースリングを24
種類、ブラインドで比較試飲して、世界一を決めようじゃないか、という企画である。広告には『極上リースリング勢ぞ
ろい!』『モーゼルと全世界のリースリング世紀の対決!』『3000人の審査員−記録に挑戦!』といった景気のいい
うたい文句がおどり、まるで格闘技のイベントである。
一介のワイン好きとしてはワクワクするような企画だが、問題は入場料だった。29ユーロ−学割でも25ユーロ(そもそ
もワインの試飲会に学割があるというのが、モーゼルらしいところだが)−は、普通の試飲会に比べると高い。VDPの
新酒試飲会なみだが、その際試飲に供されるのは辛口から貴腐までおよそ100種類である。わずか24種類、しかも
辛口のみで同額の入場料、果たして元が取れるのかどうか。行くべきか、行かざるべきか。迷ったあげくに、結局出
かけてしまった。
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会場のホールに見渡す限りに設置されたテーブルには、およそ900人(地元紙の発表)の参加者が着席し、それぞれの前に4つのグラスが横一列に並んでいる。試飲は4種類ずつ6ラウンドに分けて行われた。モーゼルの各ワイン村から集まったおよそ120人の舞踊同好会メンバーが、司会者の合図と同時に一斉にワインを注いで回り、最終的にはあわせて1728本のボトルが空になったというから、1品種あたり72本、6ダースが供された訳だ。
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目隠しのボール紙に包まれたボトルから、次から次へと
4種類注がれて、第一ラウンドが始まった。各ラウンドの
構成は1種類がモーゼル、3種類が他地区もしくは他国
の辛口リースリングである。各ラウンドにあてられた時間
はおよそ20分。普通の試飲会ならば一滴も飲み込まず
に吐き出すところだが、大枚25ユーロのもとをとるべく、
そして高々24種類だから、とたかをくくって、ほとんどを飲
みつつ味わっていた。ワインはかなり気前よく注がれ、香
りも充分、味も心行くまで楽しめる量だった。およそ70ml
前後だろうか。 |
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協賛のパン屋からの様々なパンがふんだんに配られていたので、それを合間にほおばりつつ、横一列に並んだワイ
ンを右から左、左から右へと行きつ戻りつ試飲を繰り返していたところ、次第に酔いがまわってきた。あまり集中して
も疲れるが、かといって酔っ払っては比較試飲の意味がなくなってしまう。ほどほどに味と酔いを楽しみながら、ワイ
ンの素性を推測してみた。後で知ったのだが、最初に試飲のルールを説明するとき、吐き出さずに飲んで、照り返す
アロマも楽しんで下さい、という指示があったそうだ。そのせいかどうか、会場はワインが進むにつれて和やかな雰囲
気が高まっていった。
Round 1 |
好感度 |
ワインの正体 |
(最初のうちはみんな真剣だったが....) |
No. 1 |
ややクリーミーな辛口で、ミ
ネラルが目立つ。ルクセンブ
ルク?
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☆ |
2002 Windy
Peak Riesling
Viktoria (De
Bortoli Wines/
Australia)
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No. 2 |
パイナップル、桃のヒントの
ある素晴らしい香り、調和の
とれた濃厚・複雑な味わい。
アルザスのGrand Cruか。
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☆☆☆
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2002
Martinborough
Riesling (Palliser
Estate Wines/
Newseeland) |
No. 3 |
調和がとれた味、グレープフ
ルーツのヒント、生き生きとし
た酸味、長いアフタ。
モーゼル中流から上流。
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☆☆ |
2002 Riesling Domaine Prive de la Maison, Remich-Primerberg Grand Premier Cru (Caves Krier Freres/Luxemburg) |
No. 4 |
アルコール感が強く酸が弱
い。カリフォルニアかオースト
ラリア。 |
☆☆ |
2002 Merler Sptephansberg Riesling Spaetlese (Weingut Albert Kallfelz/MSR) |
Round 2 |
好感度 |
ワインの正体 |
No. 1 |
ミネラルがしっかりしていて濃厚、中身が
詰まってアフタが長い。ラインガウ?
|
☆☆ |
2002 Roter Hang (Reh Kendermann Weinkellerei/Rheinhessen)
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No. 2 |
柑橘とパイナップルの香り、調和がとれて
いて柑橘のヒントが明瞭。モーゼルか。
|
☆☆
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2002 Fleiner Altenberg Riesling (Weingaertner Flein-Talheim/Wuerttemberg) |
No. 3 |
中身の詰まった、たっぷりしたフルーツ
感、柑橘のアフタが長く続く。ラインガ
ウ?
|
☆☆ |
2002 Langenlonsheimer Rothenberg Riesling Spaetlese (Weingut Buergermeister Willi Schweinhardt/Nahe) |
No. 4 |
やや焼けたようなアロマ、パイナップル、
トロピカルフルーツ、柑橘のヒント、リース
リングというよりはゲヴルツトラミナーみた
い。オーストラリア? |
☆☆ |
2002 Piesporter Goldtroepchen QbA (Moselland eG/MSR) |
Round 3 |
好感度 |
ワインの正体 |
(中盤になると次第にワインそっちのけで会話が弾んできた) |
No. 1 |
少し硫黄くさい。ミネラルのヒントは
あるが、やや平板。ルクセンブルク。
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☆ |
2001 Estate Dry
Riesling
(Trefethen
Vineyards/
California)
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No. 2 |
柑橘のアロマ、充実したフルーツ
感、柑橘のヒント。ファルツ?
|
☆☆
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2002 Poelicher
Held Spaetlese
(Weingut
Kanzlerhof/MSR) |
No. 3 |
明らかにニューワールドとわかるアロ
マ、味。アルコールと酵母のヒント、
個性的。
|
☆ |
2000 Riesling Off-Dry VQA Niagara Peninsula (Pillitteri Estates Winery/Canada) |
No. 4 |
スパイシー、やや酸味が強く、焼け
たようなニュアンス。アルザススタイ
ルのニューワールド。 |
☆ |
2002 Rhine Riesling (Jordan Winery/South Africa) |
Round 4 |
好感度 |
ワインの正体 |
No. 1 |
フルーティだが、やや酸が不足気味、アフ
タにミネラル。ニューワールド?
|
☆☆ |
2002 Forster Pechstein Riesling Spaetlese (Weingut Lucashof/Pfalz)
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No. 2 |
香りは柑橘に蜂蜜のヒント。中身の詰ま
った調和のとれたフルーツ、ミネラルもし
っかり。オレンジのヒント。ラインガウのエ
アステス・ゲヴェクス。
|
☆☆☆
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2002 Avelsbacher Hammerstein Riesling Hochgewaechs (Staatliche Weinbaudomaene Trier/MSR) |
No. 3 |
アルコールが高く、やや平板。
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☆ |
2002 Wellenstein Kurschels Riesling Grand Premier Cru (Les Domaines de Vinsmoselle/Luxemburg) |
No. 4 |
中身が詰まって香り高く、複雑で飲み応
えがある。柑橘のヒント。エアステス・ゲヴ
ェクス? |
☆☆☆ |
2002 Schloss Vollrads 1. Gewaechs (Weingut Schloss Vollrads/Rheingau) |
Round 5 |
好感度 |
ワインの正体 |
No. 1 |
フレッシュで繊細な香り、キリリとしたミネ
ラルのアクセント。アフタはやや短め。ファ
ルツのカビネット・トロッケン?
|
☆☆ |
2002 Iphofer Julius-Echter-Berg "Grosses Gewaechs" Spaetlese (Weingut Hans Wirsching/Franken)
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No. 2 |
たっぷりして完熟したフルーツ感、南国の
リースリング。オーストラリア?
|
☆☆
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2002 Haardter Herrenletten Selektion (Staatsweingut Neustadt a.d. Weinstrasse/Pfalz) |
No. 3 |
スパイシーでアロマティック。やや軽めな
がら完熟したグレープフルーツのヒント。
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☆☆ |
2002 Mehringer Zellerberg Riesling Spaetlese (Weingut Roemerhof/MSR) |
No. 4 |
複雑、しっかりした酸味、長いアフタ、柑
橘、上品なミネラル。クラシックなスタイ
ル。ラインガウ。 |
☆☆☆ |
2002 Durbacher Plauelrain Spaetlese (Weingut Andreas Laible/Baden) |
Round 6 |
好感度 |
ワインの正体 |
No. 1 |
白い花のヒントの香り、たっぷりしたフルー
ツ感、重いボディ、長いアフタ。アルザス?
|
☆☆☆ |
2002 Riesling Smaragd Achleiten-
Weisenkirchen (Freie Weingaertner Wachau/
Austria)
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No. 2 |
軽めでスパイシー、柑橘にミネラルのヒン
ト。モーゼル中流。
|
☆☆
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2002 Ruedesheimer Berg Roseneck "Erstes
Gewaechs" (Weingut Fritz Allendorf/
Rheingau) |
No. 3 |
少し熟成した香り、やや平板な味、軽めの
柑橘。ルクセンブルク?
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☆ |
2002 Riesling AOC trocken (Weingut Bruno
Hunold/Alsace) |
No. 4 |
たっぷりした柑橘、複雑で長いアフタ。しっ
かりしたリースリング辛口。ラインガウ? |
☆☆☆ |
2002 Graacher Domprobst Selektion (Weingut
Kees-Kieren/MSR) |
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1ラウンド終了するごとに採点用紙が集められ、集計にまわされた。評価は『普通−良い−非常に良い』の3段階。極力公正な審査結果を得るため、ワインの供出順序を2通り用意し、テーブルによって変え、採点用紙も供出順によりそれぞれ紫と赤が割り当てられた。
(僕のテーブルのワインのサービスを担当した若者たち。素晴らしい笑顔をみせてくれた。Gute Arbeit, Jungs!) |
最終的な集計結果は以下の通り。
順
位 |
ワイン |
産地 |
供出順序 |
1
|
2002 Merler Stephansberg
Spaetlese (Weingut Albert
Kallfelz) |
Mosel-
Saar-
Ruwer |
Round 1
No. 4 |
(試飲が終わってご機嫌などこかの村のワイン女王と友達。「あ〜、あなたワタシのテーブルにいたでしょ!」)
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2
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2002 Poelicher Held Spaetlese
(Weingut Kanzlerhof) |
Mosel-
Saar-
Ruwer |
Round 3
No. 2 |
3
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2002 Iphoefer Julius-Echter-
Berg "Grosses Gewaechs"
Spaetlese (Weingut Hans
Wirsching) |
Franken |
Round 5
No. 1 |
4
|
2002 Haardter Herrenletten
Selektion (Staatsweingut
Neustadt a.d Weinstrasse) |
Pfalz |
Round 5
No. 2 |
5
|
2002 Schloss Vollrads "Erstes
Gewaechs" QbA (Weingut
Schloss Vollrads) |
Rheingau |
Round 4
No. 4 |
6
|
2002 Graacher Domprobst
Selektion (Weingut Kees-
Kieren) |
Mosel-
Saar-
Ruwer |
Round 6
No. 4 |
7
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2002 Forster Pechstein
Spaetlese (Weingut Lucashof) |
Pfalz |
Round 4
No. 1 |
8
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2002 Langenlonsheimer Rothenberg
Spaetlese (Weingut Buergermeister Willi
Schweinhardt)
|
(空になったボトルの山) |
Nahe |
Round 2
No. 3 |
9
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2002 Durbacher Plauelrain Spaetlese
(Weingut Andreas Laible) |
Baden |
Round 5
No. 4 |
10
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2002 Mehringer Zellerberg Spaetlese
(Weingut Roemerhof) |
Mosel-Saar-Ruwer |
Round 5
No. 3 |
1位と2位がモーゼル・ザール・ルーヴァーで、本当にブラインドで比較した結果なのかと疑いたくなるが、公証人の
太鼓判もあり、信じるよりほかない。また、ブラインドの際の予想もことごとく外し、目隠し試飲の難しさとおもしろさを
再認識した。
集計結果は口頭でも発表されたが、ちゃんと聞
いている人は半分くらい。それが終わると舞台の
上ではバンドが演奏を始め、ロックンロールから
ポップスにあわせて踊り出す人が続出した。会
場の一角では比較試飲以外にもいくつかの醸造
所と輸入商社が試飲にワインを提供しており、サ
ーブを担当していた民族衣装を着た若者達も来
訪者と混じって、夜が更けるのも忘れていつまで
も飲み、笑い、そして踊りつづけていた。
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(2003年12月)
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