「新しいドイツワイン女王は....ペトラ・ツィンマーマン!」
全国に生中継されている舞台の上で、彼女は両手に握ったこぶしを突き
上げ、小さく飛びあってガッツポーズをとった。会場で彼女を応援していた
人々が祝福の抱擁に駆け上がる。
「待ってください、みなさん、まだ戴冠が終わっていません!」司会者は
あわてて彼らを押しとどめようとしたが、舞台はすでにカメラマンをはじめ
とする人々で埋まりつつあった。

感激で息をはずませるペトラ・ツィンマーマンさんに、昨年度のドイツワイ
ン女王ニコル・タンさんが髪飾りのような冠を頭上に置いたが、すこしかし
いでしまった。きちんとした位置に直そうするペトラさんの手は興奮で震
え、冠の位置はますますずれるばかりで、うまく頭髪に収まらない。隣の
女性に直してもらい、ようやく落ち着いた。こうして、2004/2005年度に全
ドイツワインを代表する新ワイン女王がモーゼルから誕生した。
Foto: Deutsches Weininstitut/Kaemper
昨年度のドイツワイン女王ニコル・テンさんから戴冠されるペトラ・ツィンマーマンさん。(Deutsches Weininstitutより転載許可済)



1949年に始まったドイツワイン女王は、彼女で56代目にあたる。過去1年間、各ドイツワイン生産地で地区のワイン女王を務めていた女性達13名が一同に会し、全ドイツ代表の座を競う大会が毎年10月第二金曜日に開催される。競技は午前の部と夜の部の2部に分かれている。午前の部は各出場者がそれぞれ15分に渡り、ガストロノミーやジャーナリストなどのプロからの専門知識を問う質問に答える。出題内容は事前には一切知らされず、その場で答えを紡ぎ出して65名からなる審査員を納得させなければならない。
Foto: Deutsches Weininstitut/Kaemper
並み居るプロ達を前に、質問に答えるペトラさん。
(Deutsches Weininstitutより転載許可済)

夜に生中継される選考会は、専門知識とともに当意即妙な機転とユーモア
が試される。有名人に扮した喜劇役者を相手にドイツワインに関する話題で
掛け合わなければならないのだが、その課題はかなりの難問である。『表
彰台でゼクトを振りまこうとしているシューマッハーに、せめて一杯でも飲ま
せるよう説得してください』とか、『名物お天気キャスターに、天気に合うワイ
ンを提案してください』とか『「百万長者をさがせ」に出場したとして、4択:
A・コーラ、B・ビール、C・ワイン、D・カカオのなかから正解を選び、その理
由を説明してください』とか。

ペトラ・ツィンマーマンさんへの出題は、『元首相ヘルムート・コールがドイツ
ワインの歴史を書こうとしています。彼に適切なアドバイスを与えてくださ
い』というものだった。喜劇役者が扮したコール首相−詰め物でおなかを膨
らませているが、実物には及ばない−を前に、「コールさん、痩せました
か?」とまず挨拶して会場を沸かせた。そしてドイツ政府が外交の際にドイ
ツワインではなく、外国産ワインをもっぱら用いていることをやんわりと批判
した後、ドイツにおけるワイン造りがローマ人によってもたらされたことを指
摘。「ではシュペートレーゼもローマ人の発明かね?」というコール役に対し
て、答えかけたところで時間切れとなった。その間、およそ3分。
Foto: Deutsches Weininstitut/Kaemper
司会者の質問に答えるペトラさん。彼女の一挙手一動作に審査員の目が光っている。(Deutsches Weininstitutより転載許可済)




今年度の出場者は容姿・受け答え共に、誰もが有力候補だったと言って良い。一通り出演が終わった後、13人の中からまず5人が審査員に配布されたスイッチによる投票で選ばれる。続いて審査員代表の5人が、それぞれに一対一で質問する。
「近年国際的に高い評価を受けるドイツ産赤ワインが増えていますが、優れた赤ワインを造る条件は何ですか?」
「ドイツの外交官が海外でドイツワインを勧める際、どうやって相手を説得したらいいでしょうか?」
「海外で研修する若手醸造家が年々増えていますが、これは今後ドイツワインにどのような影響を与えると思いますか?」
「ドイツのレストランでも国際的なメニューを提供する店が増えているが、ドイツワインをどうやって売ったらいいですか?」
「ワインの醸造には樽とステンレスが用いられますが、それぞれのワインに与える影響を簡単に説明してください。」
これらの問いに対して、質問された候補者は舞台の上で的確に答えなければならない。質問と質問の合間には、各産地からバスでやってきた応援団の張り上げる声援が会場に渦巻き、質問が聞き取れないほどの熱狂が溢れた。
Foto: Deutsches Weininstitut/Kaemper
最終選考に残った5人。共にここまで勝ち残った彼女達
は、互いの幸運を祈って手をとりあった。(Deutsches
Weininstitutより転載許可済)

「ティーナ!ティーナ!」「ペトラ!ペトラ!」
続く投票の間にも声援は止まなかった。やが
て結果が決まり、舞台に登場した先代ワイン
女王ニコル・テンさんが二人のヴァイン・プリ
ンセス(ティナ・キーファー/ファルツ、ナディ
ーン・イェーガー/ラインガウ)の名を上げた。
彼女達はドイツワイン女王の補佐役である。
続いてドイツワイン基金代表のアルミン・ゲー
リング氏が、新ドイツワイン女王の名前が書
かれた紙をを封筒から取り出し、読み上げ
た。
「ペトラ・ツィンマーマン、モーゼル・ザール・
ルーヴァー!」
Foto: Deutsches Weininstitut/Kaemper
中央が新ドイツワイン女王ペトラ・ツィンマーマンさん、左右がヴァイン・プリンセスのティナ・キーファーさん(右)とナディーン・イェーガーさん(左)。(Deutsches Weininstitutより転載許可済)



新ドイツワイン女王の出身地、エルプリングの栽培が盛んなモーゼル上流のテンメルス村では、彼女の戴冠が決ま
った直後、夜10時過ぎに教会の鐘を盛大に鳴らして祝ったという。これから一年間は200以上の予定で既に埋まって
おり、世界中でドイツワインをプロモーションして回ることになる。この夏のワイン祭りで何度かモーゼルのワイン女王
としての彼女のスピーチを聞いたが、付け焼刃ではない説得力があり、到底高校を卒業したばかりの20歳とは思え
ない貫禄があった。女王になるべくしてなった女性。そう言ってもいいかもしれない。彼女ならきっと、稀代のワイン女
王として大いに活躍することだろう。

(2004年10月)

注記:このページの写真はDeutsches Weininstitutのご好意により、www.deutscheweine.deの記事に用いられたも
のから転載する許可を頂いた上でご紹介しています。Die Fotos werden durch freundliche Genehmigung des
Deutschen Weininstitutes vorgestellt. Vielen Dank!



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