ドイツ最古の都市、トリアー。かつてローマ帝国の首都であったというその面影を、この町は各所に留めている。ポル
タ・ニグラ−ラテン語で黒い門を意味する遺跡は、現代に至る二千年近い歳月を破壊されることなく聳えている。大聖
堂(ドーム)、元老院議事堂(バジリカ)、皇帝浴場(カイザーテルメン)、そして円形劇場(アンフィテアター)。第二次
大戦中連合軍による二度の爆撃でその大半を灰燼に帰したものの、戦前の面影を彷彿とさせるまでに復元されてい
る。

トリアーの駅からモーゼル河方向に10分ほど歩くと、ポルタ・ニグラの威容が現れる。ツーリスト・インフォメーションは
その傍らにある。ホテルを予約していない場合は、まずそこで部屋を探そう。トリアー市の主要な収入はワインと観光
なので人口10万人の小都市にしては部屋数は多いほうだが、リーズナブルな部屋に泊まるならインターネットであら
かじめ予約しておいたほうがいい(www.trier.de)。町の中心部か駅の近くのホテルをとった方が便利だが、車の場合
はどこに泊まるにしても事前に道順をよくチェックしておきたい。市内は一方通行が多く、レーンを間違えると大回りし
たあげく方向感覚を失くして道に迷うことになる。

ポルタ・ニグラから聖ガンゴルフ教会の手前の中央広場
(ハウプトマルクト)までは歩行者天国だ。クリスマス前
の1ヶ月間はヴァイナハツマルクトが開催され、グリュー
ヴァインのスパイシーな香りが満ちる広場には、普段は
花屋や八百屋の屋台が出ている。その一角、丁度マク
ドナルドの正面あたりに、5月ころから11月最初の土曜
日まで、ワインスタンド(下の地図上の記号:WS)が登場
する。オーバーモーゼル、ザール、ルーヴァー、モーゼ
ルのワイン農家がやってきて自分のワインをグラスで提
供している。スタンドの一角には大抵ワインリストがぶら
さがっており、6種類前後、辛口から甘口まで一杯1〜
2ユーロ前後だ。農家は3日前後で別の農家と交代す
る。お昼頃から8時まで開いているが、醸造所の都合が
つかないと一日閉まっていたり、早仕舞いすることもあ
る。トリアーに来たらまずは一杯、ここでワインを試して
ほしい。モーゼルを吹く風の中で生き生きと香り立つワ
インを口にした時、あなたはその故郷に来たことを実感
するだろう。
ワインスタンドからポルタニグラを望む。



(1)レストラン・居酒屋



「トリアーに来たら、やっぱりここだよ」と、10年以上毎年モーゼルを訪れ
ている知人が太鼓判を押すのがハウプトマルクトの噴水の向かいにあ
ツム・ドームシュタインZum Domstein(1)だ。少し品のい
いドイツレストランで、ローマ時代のレシピを再現したという料理もある。
味もわりといい。3種類のワインを100ccずつ飲める試飲セットがある。
頼むと渡してくれるワインリストには、あまり有名ではない中堅の小規
模醸造所が多い。英語のメニューもある。

ツム・ドームシュタインの次くらいに観光客に人気なのは、大聖堂の隣
の聖母教会の向かいにあるヴァインシュトューベ・ケッセルシ
ュタットWeinstube Kesselstatt(2)だろう。現在はルーヴァーに
本拠を移した同名醸造所の直営居酒屋だ。料理はハム・チーズ盛り合
わせなどワインのつまみに丁度いい冷たい料理が中心だが、日替わり
で温かい料理もある。夏場には屋外に並ぶベンチに席をとり、北国の遅
い夕暮れを楽しみながら一杯やるのも格別だ。店内のカウンターに行っ
て注文し、ワインを受け取るセルフサービス方式。ちなみに、持ち帰り用
に醸造所直売価格でワインも買える。

(ヴァインシュトゥーベ・ケッセルシュタット前にあるローマのワイン船。)

醸造所を訪問するほど時間は無いけれど、新しいビンテージを色々飲んでみたいのならば大聖堂前の広場の一角にあるワルダードルフのヴィノテークWalderdorff's Vinothek(3)がお勧めだ。壁一面に設えられた背の高い棚にワインが並ぶ店内は図書館の様な趣がある。二週間ごとに入れ替わるグラスワインが15種類前後(2Euro前後〜/100cc)と、モーゼル全域から選りすぐった気鋭の醸造所のワインが100種類以上。ヒュミドールには葉巻もある。食事も出来るが、夜は喫煙者が多い。

予算に余裕があって美味しい料理が食べたいのなら、町の中心から車で5分ほどのワイン村オレーヴィヒOlewigにある、『ヴァインハウス・ベッカーWeinhaus Beckerのレストラン』(4)がお勧めだ。ミシュランのレストランガイドで一つ☆かその一歩手前くらい。5品のコースメニューにアミューズつきで50Euro前後。料理の質からすると割安かもしれない。ワインはモーゼルに限らずドイツ全国から一流醸造所−バーデンのヒューバー、ファルツのクニプサー、アールのストッデン等−を集めており、ブルゴーニュ、ボルドーも少々。ホテルと醸造所も兼営している。要予約。

モーゼル河の船着場近くの土手には、ツアラウベンZurlaubenと呼ばれる居酒屋とレストランが並んだ小道がある。
その中の一軒、『バガテッレBagatelle』(5)も良い。手ごろなのは前菜、メイン、デザートの3品で29Euroのコー
スだが、ワインにも力を入れている。クリュセラート・ヴァイラー、ヨゼフ・ロッシ、フリッツ・ハーグ、フォン・オテグラーフェ
ンなど地元実力派の他、アンジェロ・ガイヤなどイタリア・フランスワインもある。

この他トリアー市内とオレーヴィヒのお勧めは以下の通り。

ヘルベルト・オーバービリヒ Herbert Oberbillig(6)
オレーヴィヒにある伝統的居酒屋。ワイン、料理ともにまずまずだが、こじんまりとした農家風の雰囲気が旅情をそそ
る。

ブレシウスガルテン Bresiusgarten(7)
自家醸造ビール『クラフトブロイ』が売り。ホテルが経営する比較的大きなレストランで料理もビールもそこそこいけ
る。

ドイチェヘレンホーフ Deutscheherrenhof(8)
醸造所が経営する居酒屋。金土の夜のみ営業。葡萄の枝で焼いたヴィンツァーステーキ(葡萄農民風ステーキ)と本
業のワインが売り。中堅の意欲的な醸造所で、ワインの質は上々。リヴァーナー、ヴァイスブルグンダー、リースリン
グの辛口とバリック仕立のシュペートブルグンダーはお勧め。葡萄畑の光景を素材にしたHPもなかなか。

ヴァインヘクセ Weinhexe(9)
町の中心部から少し外れたところにある。陶製ストーブのある個人宅の居間の様な店内には、ルートヴィヒ・ブライリ
ング醸造所など地元ならではのワインが飲める。料理はチーズ盛り合わせ以外にも色々あるが、簡単なものが多
い。

・ダス・ヴァインハウス Das Weinhaus (Brueckenstr. 7)
2005年8月にオープンしたワインショップ兼居酒屋で、食事も出来る。モーゼルの代表的な醸造所をはじめ、ヨーロッ
パ各国のワインもそこそこ充実。カールマルクスハウスの真正面にある。ワインの価格は醸造所で買うのと同じ価格
なのがうれしいが、週末の夜は混み合う。Tel. 0651/170494

マルクトハレ Markthalle Trier (14)
中央広場からバジリカ(元老院議事堂)へ抜ける細い道の中ほどにある、2004年秋に開店したレストラン兼食品店。
モーゼルはもとより他の生産地域の代表的醸造所もしっかりおさえてある。グラスでも14種類前後提供しており、食
事も出来る。良心的な価格設定がうれしい。スタッフも親切。

・クム・ヴィーノ Cum Vino
バジリカのはす向かい、かつてのフリードリヒ・ヴィルヘルム・ギムナジウム醸造所を改装、2006年オープン。ビショフ
リッヒェ・ヴァインギューター直営レストラン。

この他にもトリアーのHP(www.trier.de)のレストラン検索で"Wein"をキーワードにすると、色々見つかるだろう。



(2)トリアーでワインを買う


モーゼルまで来てワインを買わずに帰る手は無い。一番いいのは醸造所を訪れ、試飲して気に入ったら買うことだ。
幸い、トリアー市内にある4件の醸造所には試飲直売所がある。運がよければ、ケラーも見せてもらえるかもしれな
い。

トリアーの町外れの河沿いにある。日本へも輸出してい
るだけに日本人馴れしており、試飲しやすい。ワインの
質も年を追うごとに向上を続け、トリアー市内ではイチオ
シだ。ドイツ最古のワインケラーがあるが、見学するなら
事前に予約しておいた方がいい。日本への郵送も受け
付けてくれるが、その場で送料も同時に払うことになる
(12本で82Euro, 6本で52Euro、輸送期間は約2週間。
航空便の場合はそのほぼ2倍。他の醸造所でも同じ)。
支払いは現金のみ。

ちなみに右写真の光景はオレーヴィヒの近くの葡萄畑
の散歩道Weinlehrpfadの一角。下の地図でおおまかな
行き方はわかるだろう。

ビショフリッヒェ・ヴァインギューター Bischofliche Weingueter(11)
皇帝大浴場(カイザーテルメン)の近くにあるが、裏通りなので少し見つけにくい。事務所の一角に試飲カウンターが
あり、頼めば色々飲ませてくれる。ワインの質はホスピティエン醸造所に一歩ひけをとるが、71, 76, 89年の貴腐ワイ
ンをリストに載せている醸造所はモーゼルでは他に無い。ちなみに、ここで醸造されるリースリングはカトリックのミサ
に用いることが出来る。支払いは現金のみ、日本への発送は行っていないが、輸送用の梱包箱(PTZカートン)は売
ってくれるので自分で郵便局へ持ち込めばOKだ。

トリアー国営醸造所 Staatliche Weingueter Trier(12)
トリアー駅からも大聖堂からも歩いて3分くらい。個人的にはもう少し濃厚なら言うことはないが、クリーンなワインで
価格的にはお手ごろだ。まず呼び鈴を押して事務所に顔を出す必要があるので、ちょっと入りづらいかもしれない。支
払いは現金のみ、日本への発送も受け付けている。

フリードリヒ・ヴィルヘルムギムナジウム醸造所 Friedrich Wilhelm Gymnasium(13)
2004年からビショフリッヘ・ヴァインギューターが管理運営を行っており、試飲直売もそちらで行っている。かつての直
売所は2006年夏にワインレストラン『クム・ヴィーノCum Vino』として再オープンした。

また、トリアー郊外のワイン村オレーヴィヒ周辺の個人経営の醸造所が毎週持ち回りの当番制で観光客を受け付け
ている。詳細はツーリストインフォメーションにて。

トリアーで上記の醸造所以外のワインを買うなら、以下の店がお勧めだ。

上でもふれているが、中央広場からバジリカ(元老院議事堂)へ抜ける細い道の中ほどにあるレストラン兼食品店。モーゼルはもとより他の生産地域の代表的醸造所もしっかりおさえてある。

上でも触れたワインを飲む店だが、直売も行っている。醸造所直売価格よりも若干高いけれど、モーゼルの品揃えは極めて充実。左写真は店内の様子。

ドイツを代表するデパートのトリアー支店。ポルタニグラと中央広場を結ぶ歩行者天国の中ほどにある。ワイン売り場は地下一階の食品売り場の奥だ。モーゼルはフリッツ・ハーグ、Joh.Jos.クリストッフェル、R&Bクネーベル、シュロス・リーザー、フォン・シューベルト、カルトホイザーホフ、カールスミューレなど。その他の生産地域はもとより、世界各国のワインが揃っている。ワインを買うついでにドイツの食品売り場を冷かすのも一興かもしれない。お茶のコーナーにグリューヴァイン用ティーパックもある。
ワルダードルフのヴィノテークでち
ょっと一杯。

・ダス・ヴァインハウス Das Weinhaus (Brueckenstr. 7)
上記のワインショップ兼居酒屋。モーゼルの代表的な醸造所をはじめ、ヨーロッパ各国のワインもそこそこ充実。カー
ルマルクスハウスの真正面にある。ワインの価格は醸造所で買うのと同じ価格なのがうれしい。Tel. 0651/170494

カウフランド Kaufland(16)
トリアー駅の中央出口を出て左手に見える建物の二階にある、大型安売りスーパー。ワインコーナーには日常消費
用の3〜5ユーロ前後のワインがそろっているが、10Euro以下のアイスワイン(れっきとしたラインヘッセン産のAP番
号つき)もここで買える。

買い込んだワインを郵送する場合、ワイン用梱包箱(PTZカートン)を醸造所で購入することをお勧めする。厚手のダ
ンボールで出来た外箱に、ボトルの本数だけ仕切りがついた梱包箱で、1、2、3、4、6、12本用がある。新聞紙を
つめてガムテープでしっかり封をして、郵便局でもらう伝票にあて先を書き込んで窓口に送料(12本で82Euro)を添え
て出せば、普通便(Economy)なら2週間くらい後に届く。ただし、夏場の発送はおすすめしない。

参考までに、トリアーの地図を作ってみた。おおまかな位置はこれでわかるが、正確な位置はトリアー市のサイト
www.trier.deの地図で確認してください。






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