情報は人手を経ることによってそのニュアンスが変わる。全体の文脈の中から切り取られ、強調されることで本来持
っていたはずの意味からまるで違う様にも読み取らせることができるし、不都合な部分を隠して都合のよい部分だけ
を強調することもできる。広告でよく用いられる操作だ。それは商品に付加価値を加える作業でもある。そうした情報
操作による影響を回避するには、情報源の取捨選択に留意することと、可能ならば情報の根源とコンタクトをとり、直
接当事者から生の話を聞くのが一番である。それはワインについても当てはまる。醸造所を訪問し、醸造の現場を見
て造り手と共に試飲することは、ワインを知る最上の機会である。



ドイツの多くの醸造所は、一般のワイン愛好家にも直売という形で門戸を開いている。ゴー・ミヨのワインガイドをはじ
めとする各種ドイツワインガイドや、Weinplus.de、あるいは醸造所のHPで、訪問出来る時間を知ることができる。モー
ゼルには予約の必要な小規模な醸造所が多いが、他の産地では予約不要な醸造所も少なくない。規模の大きい著
名醸造所は試飲直売所を設けており、ワインショップへ行ってワインを買う感覚になる。逆に予約をしてから訪問する
タイプの醸造所では、オーナーが直々に数時間に渡って相手をしてくれることもある。

だが、醸造所訪問はタダ酒を飲む機会ではない。基本的
には購入を前提とした試飲である。しかし訪問したら購入
しなければならない本数は特に決まっていないし、遠来か
らのお客さまとして、貴重な時間を割いてもてなしてくれ
る。ワインを飲みながらのおしゃべりは、いつも楽しい。前
年の出来や醸造所の歴史、葡萄畑の個性や醸造方法、
売れ行きや醸造哲学から身の上話に至るまで、話題は尽
きることが無い。

一区切りつくごとに「それじゃ、次はどれにしようか」とご主
人がケラーにワインを取りに行く。その間一緒に訪問した
者同士で「いいですねぇ。」「来てよかったですね!」とうな
ずきあっているうちに、ボトルを手に彼が戻ってきて、再び
グラスにワインが注がれる。ワイン好きにとって至福のひと
ときである。

しかし、いつも予定通り事が運ぶとは限らない。『予約不要』という言葉を信じて行ってみたら閉まっていたとか、予約した筈なのにオーナーは休暇に出かけて留守だったとか、急きたてられるようにして試飲がすすんで楽しむどころではなかったとか、団体とかちあって人手が空くまで長時間待たされたとか、思いがけない事態に出会うこともたまにはある。しかしそれでも、醸造所へ赴いて試飲することは、他のどんな機会にも勝って印象的な体験をすることができる。インポーターの宣伝でもなく、マスメディアの記事でもなく、自分自身の五感でワインを味わい、造り手の話に耳を傾けること。ドイツワインの本質を知るには、これ以外にない。



とはいうものの、お仕着せのツアーに頼らず自力で醸造
所を訪問するには、それなりの準備が必要だ。訪問先
を決めたら、とりあえず仮のスケジュールを立てよう。経
験的には一日3醸造所が上限だ。一ヶ所醸造所を訪れ
ると、大抵は6種類位試飲することになる。二時間など
あっという間だ。午前10時から一軒、昼食をはさんで午
後1時から一軒、午後4時から一軒というのが無難な線
だが、途中の移動時間も考慮する必要がある。

スケジュールを立てたら醸造所に予約を入れよう。イン
ターネットで醸造所名を検索すれば醸造所のHPが見つ
かり、そこで訪問可能時間とともに道順がわかることも
多いが、ゴー・ミヨのワインガイドのHPにも予約の要・不
要および訪問可能時間と連絡先が載っている。また、
Weinplus.deでは醸造所の村内の位置までわかるので
重宝だ。また、予約不要とあっても一応念のために訪問
予定を伝えたほうが無難だ。経験的に予約をしておいた
ほうが醸造所の対応が丁寧になる。

予約するのに一番便利なのはメールである。訪問希望日時と人数、できれば訪問理由と簡単な自己紹介も添えた方がいい。著名醸造所なら大抵英語も通じる。数日待っても回答が無い場合は電話で問い合わせる。ご主人以外が電話に出る場合もあるので、直前に用件をFaxして、それが届いているかどうかの確認という形で電話をすると話が通りやすい。メールで回答がない場合でも、電話すると予約がとれる場合が多々ある。また、日本で懇意にしているインポーターがあれば、そこから取引のある醸造所に予約を入れてもらう手もある。予約が取れたら醸造所にお礼の言葉を添えて確認のメールかFaxを出そう。これで訪問準備は完了だ。

購入を前提とした試飲におみやげは原則的に不要である。下手なお土産を渡すより、そのぶん試飲と会話を楽しんでワインを購入したほうが喜ばれる。持ちきれない場合は醸造所に自宅への発送を依頼してみよう。NGならばそれはそれで、少しだけ買う理由になる。


(写真はVon Othegraven醸造所のオーナーご夫妻。醸造所を訪問すると、造り手の素顔に出会える。)



以下、これまでに訪問したことのあるモーゼルの醸造所で好印象で予約がとりやすい醸造所を挙げておく。もっとも、
ここ数年のうちに対応方針が変わっていることがあるかもしれないので、あくまでも参考情報である。

Weingut Reinhold Haart (Piesport)
Tel. (06507) 2015 Fax. 5909
知人に予約してもらったが、とても親切・気さくなオ
ーナー父子(写真左がオーナーのTheo Haart氏、
右がガイゼンハイムで勉強中の息子さん)だった。
メールで予約できる。ワインも濃厚で調和がとれて
おり美味しい。試飲は3種類前後。


Weingut Karthaeuserhof (Eitelsbach/Ruwer)
Tel. (0651)5121 Fax. 53557
予約は比較的容易で、事務のおばちゃんも親切。メールでは回答が来ないこともあるが、その場合は電話しよう。写真はケラーマイスターのLudwig Breiling氏(左)とオーナーのChristoph Tyrell氏。


訪問記:2004.10

Weingut Paulinshof (Kesten)
Tel. (06535)544 Fax. 1267
予約不要。一応電話で確認してから訪問したところ、販売を担当しているオーナーの奥様(写真:Christa Juenglingさん)には非常に親切に応対していただいた。

訪問記:2003.3

Weingut Max Ferd. Richter (Muelheim)
Tel. (06534)933003 Fax. 1211
メールで丁寧な返事が折り返し来た。訪問客の
受け入れに前向きで、予約は取りやすい。地下
の広大なケラーは一見の価値がある。クラシッ
クなスタイルのモーゼル。写真はオーナーのDr.
Dirk Richter氏。

訪問記:2003.7

Weingut Schloss Saarstein (Seerig/Saar)
Tel. (06581)2324 Fax. 6523
メールでは返事が来なかったので電話したらすぐにOKがとれた。葡萄畑の丘の頂上にある醸造所からの眺めは素晴らしい。写真はオーナーのChristian Ebert氏が発酵中のワインを試飲させてくれているところ。大サービスといっていい。

訪問記:2003.10

Weingut Sankt Urbans-hof (Leiwen)
Tel. (06507)93770 Fax. 937730
直売所があり予約は不要なはずだが、一応予約し
た方が確実。偶然先客に団体がいて他にスタッフが
誰もおらず、あきらめかけたことがある。その時親切
に対応してくれたのがオーナーの奥さんのDaniela
Weisさん(写真)。2003年産はモーゼルのベストのひ
とつ。

訪問記:2004.4

Weingut Forstmeister Geltz-Zilliken (Saarburg/Saar)
Tel. (06581) 2456 Fax. 6763
メールで返事は来ないが、電話するとすぐOKがとれた。訪問者の受け入れに前向きで予約は取りやすい。オーナーのHans-Joachim Zillikenさん(写真)が不在の時でも、奥様か娘さんが対応してくれた。


訪問記:2003.7, 2003.10

逆に予約の難しいのがエゴン・ミュラーとJ.J.プリュム。前者の場合予約を申し込んで運がよければ、電話でエゴン・
ミュラー氏から日時の指定があるそうだ。後者は一度断りの電話をくれたことがある。ここの場合は予約をするにして
も訪問の一ヶ月以上前にするものらしい。Dr. ローゼンはメールで予約がとれるが、日時は醸造所から指定されると
聞いた。この3醸造所、いつか行ってみたいと思いつつ、まだ行った事が無い。



以上、多少なりともご参考にしていただければ幸いです。もしもご質問などありましたらメールか掲示板にてお問い合
わせ下さい。





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