ユルツィガー・ヴュルツガルテンの葡萄畑


ハート氏の運転するバンはユルツィヒ村に入り、川沿いの街道を外れて狭い坂道を上り始めた。村はヴュルツガルテ
ンの斜面の麓にあり、木組みのメルヘンチックな家が軒をならべている。車一台がやっとすれ違えるかどうかという狭
い裏通りに、カール・エルベス醸造所の入り口はあった。




当主のシュテファン・エルベス(右写真)
は、今年37歳になる若手醸造家だ。
1967年に彼の父が設立した醸造所で、
1984年からワイン造りに携わっていると
いうが、飲酒歴はもっと長い。その証拠
の写真、子供の頃のシュテファン。こうし
て幼い頃からワインへの感覚は養われ
ていったのだ…とも言える。

5年前に経営から醸造まで一切を引き継いだシュテファンは、笑顔をたやさない親しみやすい若者だ。居間で雑談などして和んだ後、ユルツィガー・ヴュルツガルテンの葡萄畑を見に行った。村の背後から一本だけ、畑の斜面を横切るようにして農道が延びている。畑は耕地整理されておらず、これ以外に車の通れる道はない。従って、古木や接ぎ木なしの自根の葡萄樹が残っており、それが赤みを帯びたシーファー土壌の個性と相まって、カール・エルベスやJoh. Jos.クリストッフェル、Dr.ローゼンといった醸造所の、ユルツィヒのワインを素晴らしいものにしている。


ここの葡萄畑は半端でなく急だ。収穫の際にこの斜面を50kg近い葡萄が入った背負子をかついで作業者が上り下りするなんて、ほとんど命がけの仕事である。

「すべり落ちたこと?大丈夫だよ、葡萄樹につかまれば。」とシュテファンは笑うが、斜面最上部近くにある彼の畑の傾斜はきつく、土壌の石がなだれを起こしそうだ。



(ヴュルツガルテンの外れにあるカール・エルベスの葡萄畑。)
不思議な曲がり方をしてい葡萄の
樹ですら、重力にあらがうかのよ
うに、途中で伸びる向きを変え
て、斜面の上方に向かって幹を延
ばしている。おそらく葡萄の支柱
の位置を変えた結果だと思うが、
興味深い。

4haの畑のうち3.7haがユルツィガ
ー・ヴュルツガルテン、残りの0.
3haがエルデナー・トレプヒェンに
ある。る葡萄樹。





醸造所の試飲所で2006年産を中心に14種類試飲した。
2006年は2005年より3割近く収穫が減ったという。10月3日に始めたリースリングの収穫は10月19日には完了。完
熟したためカビネットはリリースせず、QbAホッホゲヴェクスの上がいきなりシュペートレーゼになる。そのシュペートレ
ーゼも果汁糖度は116エクスレで、ドイツワイン法の規定に従えばベーレンアウスレーゼとしてもリリース可能だ。ア
ウスレーゼは127エクスレ、さらにアウスレーゼ*、**、***、***ゴルトカプセルの4種類があり、***ゴ
ルトカプセルは140エクスレ、TBAは190エクスレ。肩書きが上がっていくにつれて次第に香り高く、気品と複雑さが増
していくが、QbAホッホゲヴェクスからベースになる香草と蜂蜜のトーンは変わらない。ラインナップ全体を通して高品
質だ。発酵は伝統的なフーダー樽で、冷水の通るコイルを用いて発酵温度を10〜12℃の低温に保つ。平均収穫量
は78hl/ha、軽やかで品のある果実味には好感が持てる。




生産の90%が甘口に仕立てられ、輸出が7割を占める。うち15〜20%が日本、50%が北米向けだ。海外の顧客へはド
イツのワイン輸出商ケスペラヘアー(Kespelher Wine Schippings GmbH)を通じて紹介されている。彼はここカール・
エルベスを始め、小規模だが高品質な、特に甘口が魅力的な醸造所を発掘する手腕に長けているようだ。




近年ドイツでも辛口・中辛口が増えつつあるが、シュテファンは今の路線を変えるつもりはない。逆に甘口のスペシャ
リストに徹して、競争を生き抜こうという戦略だ。その魅力的なクリーンで香り高い甘口ならば、正しい判断かもしれな
い。地元チームでサッカーのゴールキーパーをつとめる彼は、ちなみにまだ独身だそうだ。結婚相手は、と聞くと「そ
れがなかなか難しいんだよね」という。彼女はいるらしいのだが、ゴールインするまでには、まだ難関を乗り越えなけ
ればならないということか。いずれにしても、幸運を祈りたい。



カール・エルベス醸造所
Weingut Karl Erbes
Wuerzgartenstrasse 25
54539 Uerzig/ Mosel
訪問直売:月〜金 9-17時(それ以外の時間
は要予約)
直営居酒屋:10月 11-21時
民宿も営業
Data
所有面積:  4 ha
年間生産量: 約40,000本
葡萄品種: リースリング 100%
平均収穫量: 78hl/ha
個人的評価: ☆☆☆

(2007年5月)




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