6月も3週目に入り、モーゼルのリースリングの開花が始まった。先週から、いつ開花するか毎日気になっていたのだが、今日16日、葡萄畑へ整枝の作業を体験しに行ったところ、あちこちで開花が始まっていた。桜の花の様に艶やかではなく、おしべとめしべが彼らを覆っていた袋を押しのけて、姿を現しただけの花びらすらもない質素で慎ましい開花である。しかしそれでも、おしべの黄色い先が四方に開いている様は、それなりに華やいだ趣がある。それまで押し込められていた生命力が一気に放出されているような勢いがある。



今日の仕事は、勢いよく伸びた葡萄の枝を針金の間
に挟みこむ作業だった。葡萄の列に沿って張られた
針金は、一番上が2本平行に、その50cmほど下に一
本、さらに同間隔を置いて下に再び2本平行に、そし
てもう一本張られている。3月に固定した母枝に残さ
れた芽から4月下旬に発芽して以来、上下左右様々
な方向に伸び放題の枝は、そのままだと農薬散布や
剪定を行う際に畝の間を走る作業車の邪魔になる。
そこで、畝をはみ出した枝を針金の間を通すようにして納めるのだ。また、地面の近くを這うように伸びている枝は、房のついている位置から先に葉を一枚残すくらいにして剪定し、実の成っていない枝は付け根から切り落とし、葉の付け根から出ている小さな葉もまた取り除く。枝を針金の間に収めたら、風通しを考えて少し葉を間引く。
葉は房ひとつにつき大体8枚前後を残すが、いち
いち数えたりはしない。枝を導く際に時々折れて
も、気にしない。畝の右と左から二人一組で、雑談
しながらマイペースで作業はすすんだ。緑の葉が
そよぐ海の波間に、参加者の頭が時々見え隠れし
ていた。



トリアーのリースリングはまだ二分咲きといったところだが、今週中には満開になるだろう。ルーヴァー、ザールの開花も、それに少し遅れるようにして始まり、やがてモーゼルの渓谷全体が、葡萄の花のほのかに甘い香りに満たされることだろう。

(撮影2004年6月16日)







葡萄の開花を目にしてからというもの、晴れ間があると葡萄畑へと足を運ぶようになった。
この時期を逃したら葡萄の花は来年まで見ることが出来ないし、それまでトリアーにいるかどうか判らない。もしかし
たら、これが葡萄の花を目にする一生で最後になるかもしれないかと思うと、じっとしていられなかった。

僕の家から葡萄畑までは歩いて10分位である。住宅街を抜けるとローマ時代の闘技場跡があり、そこから綴れ折に
なった坂を登る。それほど急な坂ではないのだが、日ごろの運動不足のせいで葡萄畑の入り口に辿り着くころには
息がきれていることが多い。『ワインを知る散歩道』とでも訳すのだろうか、Weinlehrpfadと呼ばれているその道は、葡
萄の様子を間近に見ることができるとともに、犬の散歩やジョギングに利用する市民も多い。
葡萄畑の麓に闘技場跡があり、そのむこうにローマ時代の浴場跡がある。そこからすこし右へ視線をずらすと、大聖堂の尖塔が見える。町の向こうにモーゼルの対岸の山が低い壁のように聳え、ルクセンブルクの方向へ左に視線をめぐらすと、曲線を描いて流れるモーゼル河が銀色に輝いてみえる。


(葡萄畑の向こうの大聖堂。撮影は6月6日)



間近に植わっている葡萄の木々は、来るたびに様子が違う。成長につれての変化もあるが、僕が知らないうちに枝
が剪定されていたり、農薬が散布された白い跡が葡萄の葉についていたり、訪れる時間によって、あるいは天気に
よって陽光の具合が違っていたりするからだ。葡萄の木々の他にも、畝の間に生えている草が急速に成長して、先
週はなかった花が咲いていたり、数日後に訪れると、今度はそれがトラクターでことごとく掘り返されなぎ倒されてい
たりもする。生き生きと伸ばしていた葡萄の枝が、いつの間にか伸びすぎて、重みに耐え切れず太い枝ごと根元から
折れている光景も時々であった。たまに闘技場跡で野外コンサートがあると、舞台こそ見えないものの音響は畑のあ
る斜面までまっすぐに届いてよく聞こえる。そうした日には葡萄畑にはいつになく大勢の人が訪れ、道端に座り込ん
で無料でコンサートを楽しんでいる。



開花が始まって2週間ほど経つ。ほぼひとと
おり花は咲いて、今は結実している様子があ
ちこちで見られる。葡萄の花は一斉に咲いて
一斉に散るということはなく、あちらで結実し
ている一方でこちらでまだ花が咲いていたり、
あるいは開花すらまだだったりと、まばらだ。
葡萄の房ひとつの中でも、咲いたものと蕾の
ものとが入り混じっている。この花から蜜がと
れるのかどうか判らないが、蜂があちらこちら
を忙しげに飛び回り、受粉を手伝っていた。

開花してしばらくすると、おしべが散る。そしてめしべだけが残り、少しづつ膨らみ始める。それがやがて葡萄の実と
なるのだ。はやくも7月に入り、一年の半分が過ぎ去った。収穫へとむけて葡萄は生長を続け、季節は移ろってゆく。


写真右:開花が終わり結実したリースリング。撮影6月24
日。
写真下:夕陽に映える開花中の葡萄。6月17日午後10時
すぎ撮影。夏至まぢか、一年で一番日没が遅い頃であ
る。

(撮影2004年6月下旬)





7月上旬、葡萄畑を散歩していると、時々農薬を散布している写真のようなトラクターをみかけた。車の後部にある大きな扇風機の様な散布マシンから、木々に農薬が吹きかけられる。葡萄の葉や果実には白い農薬の痕跡が残り、それを見ると試食する気が失せてしまう。もっとも、それにはまだ早すぎるけれど。

右と下は7月8日の房の様子。粒はまだ小さく、所々に雄しべの痕跡が残っている。
この時期のもうひとつの作業が、上に伸びすぎた枝を刈り取
る「ギプフェルンgipfeln」と呼ばれる作業。写真の畑ではトラク
ターに取り付けたマシンで一定の高さに切りそろえてある。


葡萄畑の一年・夏 成熟へ




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