Weingut Van Volxem (Wiltingen/Saar)
Deutche Uebersetzung: hier
モーゼルの多くのワイン農家は、将来に悲観的だ。
樽売りワイン市場の低迷、ユーロ導入に伴う物価高からの買い控えと食習慣の変化に伴う甘口白ワインばなれが、
市場の状況として存在する。その結果、ワインが思うような値で売れず、きつい労働に対して収入が伴わないことか ら、若い世代が後を継ぎたがらない。葡萄畑を耕作する農民は高齢化し、やがて引退。葡萄畑は放置され、荒れる に任される。
しかし、暗澹とした将来図とはまったく関わりが無いかのように見える醸造所もある。例えば、ザールにあるエゴンミ
ュラー醸造所が、そのひとつだ。ここのワインは毎年VDPモーゼル・ザール・ルーヴァーの競売会で高値を呼び、一般 市場のドイツワインばなれとは一向にかかわりが無い。J.J. プリュム醸造所、Dr.ローゼン醸造所、フリッツ・ハーグ醸 造所など、すでに長い伝統を持ちつつ、さらに磨きをかけている醸造所にとってもまた、ワインはまさに黄金の液体で ある。この二つの両端の間に、モーゼルの数千に及ぶ醸造所は散らばっている。そして近年、新しい動きが芽生え つつある。
剪定も独特で、「非常に複雑」で人任せには出来ない、という。モーゼルで一般的な剪定方式は、葡萄の枝をハート
型に仕立てる方式で、これだとその年に成る葡萄の房1つあたりにつき、葉は3枚前後残される。しかし「葉は葡萄 の成熟の原動力を供給するんだ」というマンフレッド・ロッホ氏のやり方だと、葡萄の房1つにつき、およそ12枚の葉 を残す。カーネロ・ヴァーティコという仕立て方で、葡萄の房が力強く成熟していく様子は、他の葡萄畑とは明らかに 違うそうだ。
収穫から圧搾もまた、徹底している。普通のワイン農家の収穫は、まずバケツに収穫した房をためて、葡萄の列の間
を行き来している運搬人が通りがかるたびに、彼が背負っている40Kgは入る大籠に空ける。運搬人は大籠が一杯に なると、トラクターに連結してある1トンは入るさらに大きなコンテナの上に背を丸めるようにして、収穫をどさどさと放り 込む。最初に投入された房は、当然重みで潰れ、コンテナの底には果汁がたまる。
しかしロッホ氏のやり方だと、まず圧搾前に房がつぶれないように気を配る。約45 x 30 x 20cmの小型の容器に収
穫を入れて、大籠やコンテナに移すことなく、沢山の容器を積み上げた状態で圧搾機まで運搬する。圧搾もまた、普 通6〜7気圧で行うところを、2気圧の低圧で時間をかけてゆっくりと行う。葡萄の収穫に紛れ込んでいたてんとう虫 が、圧搾の後も生き残っていたほど、ソフトな圧搾だそうである。
ここまで精魂傾けて造ったワインの味は、確かに、明確な個性を持っていた。土壌の個性と生産年の特徴が味に現
れている。アウスレーゼの97年は気品に満ち、98年は酸味がピンと通り、99年は甘みに多様なニュアンスがある。 最も手ごろな6ユーロ(約720円)の辛口白も、ミネラルの味がするしっかりしたボディで、いいワインだった。
昨年瓶詰めが終わった頃、ドイツでワインジャーナリストとして著名なストゥワート・ピゴット氏が、モーゼルの醸造所
の取材の一環としてこの醸造所を訪れた。その数日後、何件もの他の醸造所から、辛口リースリングの注文がたて つづけにあったそうである。不思議に思って聞いてみると、ピゴット氏が「辛口リースリングがどういうワインであるべ きか、あの醸造所のワインを飲めばわかる」と触れてまわっていたのだそうだ。お陰で、辛口ワインは試飲できた1種 類のほか完売、甘口も2001年産はシュペートレーゼ1種類しか残っていない。もっとも、現在所有する葡萄畑はわず かに2ha、専業ワイン農家としては、ドイツ全体でも最も小さい醸造所のひとつである。
それにしてもこのワインが、葡萄畑の世話から醸造まで、すべて学校に通うことなく独学で学んだ結果だということ
に、何よりも驚かされてしまう。あるいは逆に、先入観や固定観念から全く自由だったからこそ、造ることが出来たワ インなのかもしれない。しかしそれよりも重要だったと思われるのは、葡萄畑とワインにかける彼らの熱意と弛まざる 努力であろう。それが年ごとのひとつひとつの経験から多くを学ぶことを可能にし、確実に成果をもたらし続けて来た のではないだろうか。ワイン造りに携わってから今年で10年目、初めて1週間の休暇をとって、家族で旅行に行くそ うである。
モーゼルの醸造所の新しい風として、ファン・フォルクセン醸造所とヴァインハウス・ヘレンベルク醸造所を紹介した
が、この他にも今年もう一軒、スイス出身の30歳そこそこの若手醸造家が2000年から始めた醸造所が、ひときわ注 目を集めている。トラーベン・トラーバッハのフォレンヴァイダー醸造所である。オーナーのダニエル・フォレンヴァイダー 氏はモーゼルのDr.ローゼン醸造所で研修中に、ヴォルフ村にある急斜面の古木が残っている葡萄畑に惚れ込み、 知名度が低いことから比較的リーズナブルな価格で1.5haを購入。初ビンテージは天候に恵まれなかった為、わずか 3,500本前後しか生産できなかったが、2001年は約8000本を生産。収量は36hl/haと、やはり低く抑えている。
この3つの醸造所は、いずれも間違いなく今後多かれ少なかれ注目を集めるに違いない。
効率化の不可能な急斜面が多いモーゼルのワイン農業の先行きに悲観的な見解が多勢を占める中で、既成概念か
ら自由な若手が、効率ではなく理想を追求した成果が、着実に実を結びつつある。この流れは、次第に各地に広がっ ていくのではないだろうか。
(2003年 3月)
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