醸造所訪問2003年5月
マルクス・モリトー醸造所
R&B クネーベル醸造所
ドイッツァーホフ醸造所
Weingut Markus Molitor (Bernkastel-Wehlen)
Weingut Reinhard und Beate Kneber (Winningen)
Weingut Deutzerhof (Mayschoss/Ahr)


1.マルクス・モリトー醸造所


マルクス・モリトー醸造所は、ヴィットリッヒの駅からモーゼル河に向かう道沿いにある。バスで
およそ15分ほどの距離で、最初は道の両側に麦畑がどこまでも広がる景色が続き、途中から
山の中に入り、モーゼル河の手前で車窓の左手に葡萄畑のひろがる斜面が見えてくる。そこ
が、目指す醸造所だ。

オーナーのマルクス・モリトー氏は、1984年に父親の跡を継いだ
当時、3ヘクタールそこそこの、ごくありふれた規模の家族経営
の醸造所を、現在モーゼル中流で最大と言われる約40ヘクター
ルにまで大きくした。所有する畑はZeltinger Sonnenuhr, 
Wehlener Sonnenuhr, Graacher Domprobst, Bernkasteler 
Badstube, Uerziger Wuerzgartenなどの有名な畑に加えて、近年
新たにザールにあるNiedermenninger Herrenbergをケッセルシュ
タット醸造所から購入し、品揃えの幅を一段と広げた。

この品揃えの幅広さが、この醸造所を特別なものにしている。
新酒だけで毎年辛口から極甘口まで40種類以上をリリース、
1988年以来毎年トロッケンベーレンアウスレーゼの収穫に成功し
ている。なかでも1994年のそれは、3年半おそろしくゆっくりと発
酵を続け、1999年の競売会でハーフボトルでDM 3000 (約180,
000円)の高値をつけた。
(オーナーのマルクス・モリトー氏。背景には受賞ワインの賞状がずらり。)

僕がしばしば参考にしている2つのワインガイド−ゴー・ミヨとアイヒェルマン−でも、2003年版
はそれぞれ葡萄の房4つ(5つが満点)と☆5つ(同じく5点満点)と、非常に高い評価を受けて
いる。しかし、これまで僕も大きな試飲会で何度か試飲しているが、どうもその評価に納得でき
ないでいた。そして今回、この醸造所の春の試飲会に行き、じっくり確かめてみることにした。



ヴィットリッヒの駅に着き、時刻表を見ると、バスの発車まで40分前後あった。
空はさっぱりと晴れ上がり、初夏の太陽はすこし暑いほどだったが、景色は明るい光で満ちていた。そこで、かねてから考えていた通り、あの麦畑の中をまっすぐに伸びる道を、歩いていくことにした。

地図で見ると、ほんの少しの距離である。およそ1時間ほどで着くかと思われたが、甘かった。いつもバスで通っているときは気がつかなかったのだが、歩道がなかった。アスファルトの脇の路肩のわずかな幅の上か、ときどき畑の端に生い茂った雑草と格闘しながら、炎天下に汗をしたたらせながら、地道に歩いていった。
(ヴィットリッヒからモーゼル河へ向かう道。のどかな田園風景だが、車は高速で飛ばしている)
それでも山道に入ると木陰が涼しい。排水用の浅い側溝が格好
の歩道になり、高速ですっとばしていく車の危険から守ってくれ
た。予定より15分ほど遅れ、1時間半ほど歩きとおしたところ
で、葡萄畑の斜面の中腹にある醸造所に到着。車道から外れて
静かな醸造所の庭に入ると、さすがにほっとした。

試飲所は規模と名声にふさわしく、およそ100人を収容できる大
きな空間だった。ちょっとしたレストランなみだろう。リストを見ると
なんと115種類のワインがならんでいる。このなかから興味をひ
いたワインを選び、担当者に持ってきてもらうという形式だった。
なんだか商談に来た見たいで落ち着かなかったが、こちらが学
生で、ただのワイン好きにすぎないことは事前にメールで伝えて
あったので、まぁいいか、と肝をすえる。



以下に試飲したワインと評価を挙げる。
評価方法を従来と少し変えて、色・香・味の各項目をいくつかの要素に分類し、それぞれを5点
満点で、微妙に思われる場合は+記号または−記号で補足して採点した。
評価基準は以下の通り。

評点
(befriedigend)

(gut)

(sehr gut)

(hervorragend)

(Perfekt)

Farbe
濃さ
Intensitaet
ほぼ無色 淡い はっきりとした色調 濃い 向こうが見えないほど濃い
色調
Toene
適宜類似する色を挙げる

Traene
多寡、特徴を適宜描写

Aroma
強さ
Intensitaet
弱い 普通 明瞭 素晴らしい 完璧
広がり
Breite
閉じている 普通 広がり感あり 素晴らしい 完璧
複雑さ
Komplexitaet
単調 普通 やや複雑 素晴らしい 完璧

Geschmack
濃さ
Intensitaet
薄い 普通 やや濃いめ 濃厚 恐ろしく濃
複雑さ
Komplexitaet
単調 普通 やや複雑 素晴らしい 完璧
フルーツ感
Frucht
少ない 普通 明瞭 とても魅力的 完璧
ミネラル/タン
ニン
Mineralien/
Gerbstoff
少ない 普通 しっかり 素晴らしい 完璧
アフタ
Nachhall
短い 普通 やや長い 素晴らしい 完璧
総合 魅力に欠ける 普通、そこそこ楽
しめる
魅力的、また飲み
たい
素晴らしい、特別
な機会に飲みたい
口に出来ただけでも幸せ。



テイスティングノート

ワイン 2001
Molitor
Gutsriesling
QbA
2001 Wehlener
Klosterberg
Rieslng Kab.
trocken
2000
Bernkasteler
Badstube Riesling
Spaetlese
trocken
2001 Zeltinger
Sonnenuhr
Riesling
Spaetlese trocken
2001 Alte Reben "Saar" Riesling QbA trocken
濃さ 2 1 1 1 2
色調 淡金 ごく淡い ごく淡い ごく淡い 淡金、淡緑
なし なし なし なし 細い
強さ 2 2 2+ 2 2+
広がり 2 2 3 2 2+
複雑さ 2 2 2+ 2 3
ヒント アルコール、バニラ レモン バニラ 葡萄 完熟した柑橘
濃さ 2+ 2 2 2+ 3+
複雑さ 2+ 2 2 2 3+
フルーツ
2+ 2+ 2+ 2+ 3
ミネラル 3 2 2+ 2 3
アフタ 2 2 2+ 2+ 3
その他 酸とミネラルが主体 やや軽い
やわらかい口当た 重いミネラルのアフタ
総合 2+ しっかり
感あり
2 ライトな辛口、
やや酸が強い
2+ やや軽め 2+ 調和のとれた 3+ 樹齢60歳から100歳の古木、樫の新しい大樽(3000L)で発酵


ワイン 2001 Alte
Reben "Mosel
" Riesling QbA
trocken
2001 Alte Reben "
Barrique"Rieslng
QbA. trocken
1992 Zeltinger
Sonnenuhr
Riesling Auslese*
trocken
1994 Zeltinger
Sonnenuhr
Riesling Auslese*
trocken
1999 Wehlener Sonnenuhr Riesling
Auslese** trocken
濃さ 2 2 2 2 2
色調 淡金緑 淡金緑 淡金 淡金 淡金緑
細い ごくゆっくり なし なし ゆっくり
強さ 2+ 3 2 2 2
広がり 2+ 3 3 2 3
複雑さ 3 3 2+ 2 3
ヒント 漢方薬 モカ、バニラ グレープフルーツ、軽い熟成香 熟成香、フルーティ 生クリーム
濃さ 3 3 3 2 3
複雑さ 3 3 2+ 2+ 3
フルーツ
3 2 3 2+ 3
ミネラル 3 2+ 2+ 2+ 2+
アフタ 2+ 2+ 2+ 2+ 2+
その他
バリック、ミネラル、
酸味の複合体
熟成しつつあるが、まだ若々しい すこし大人しい 調和のとれた上品
総合 3 3 3 2+ 3


ワイン 2001 Zeltinger
Sonnenuhr
Riesling
Auslese***
trocken
2001 Graacher
Himmelreich
Riesling Riesling
Spaetelse
halbtrocken
2001 Zeltinger
Deutschherrenberg
Riesling Kabinett
feinherb
1999 Graacher
Domprobst
Riesling
Spaetlese
2001 Wehlener Sonnenuhr Riesling Spaetlese
濃さ 2 2 2 2 2
色調 淡金 淡金 淡金緑 淡金 淡金
ゆっくり なし なし なし なし
強さ 3 2 2 2 2
広がり 2 2 2 2 2
複雑さ 2 2 2 2+ 2
ヒント バニラ、ベリー ベリー 酵母 クリーン Johannisbeer, バニラ、酵母
濃さ 3 2 2 2+ 2
複雑さ 3 2+ 2 2+ 2+
フルーツ
3 2+ 2 3 2+
ミネラル 2+ 2+ 2 2+ 2
アフタ 2+ 2+ 2 3 2
その他 新樽に柑橘 快適な飲み口 調和のとれた Johannisbeer, バニラ
総合 3 2+ 2+ 2+ 2


ワイン 1993 Zeltinger
Sonnenuhr
Riesling
Auslese**
2001
Niedermenninger
Herrenberg
Riesling Auslese**
2000 Trabacher
Schlossberg,
Spaetburgunder
trocken
2001 Wehlener
Klosterberg
Weissburgunder
QbA "S"
1998 Wehlener Abtei Riesling Eiswein
濃さ 2 2 3 2 3
色調 淡金 淡金 ガーネット 淡金緑 淡金
なし なし 太い なし なし
強さ 2 2+ 2+ 2+ 2+
広がり 2 2+ 3 2 2+
複雑さ 2 2+ 3 2+ 3
ヒント 熟成香、バニ
ラ、
Johannisbeer
酵母 炭、バニラ、少し土臭い、ラズベリー 軽く蜂蜜、ほんのりバリック 蜂蜜、柑橘、貴腐
濃さ 2+ 3 3 2+ 2+
複雑さ 2+ 3 2+ 2+ 3
フルーツ
3 3 2+ 3 3
ミネラル 2 3 3 (タンニン) 2+ 2
アフタ 3 3 3 2+ 3+
その他 穏やかな甘み 調和のとれた綺麗
な甘口
しっかりめのタンニンとバランスのよいフルーツ タンニンに似た渋 栗、強い甘み
総合 2+ クラシックな
甘口
3 3 バリック熟成、ノ
ンフィルター
2+ 3 アイスワインとしてはやや小ぶり



まとめ

マルクス・モリトー醸造所のワインの特徴は、すべてのワインにおいて培養酵母を用いず自然
酵母による発酵を、低温でゆっくりと行う点にある。ワインはAlte Rebenを除いてそれほど濃く
はないが、古典的なスタイルのモーゼル・リースリングだ。新しく購入したザールのNieder-
menniger Herrenbergは優良な畑らしく、甘く丸いフルーツ感が魅力的。また、シュペートブルグ
ンダーのボトルは見たことが無いほど分厚い、ごっついボトルで、瓶底のへこみも親指一本が
余裕で入るくらいに深い。その味もモーゼルの赤とは思えないほどに洗練されている。

繰り返しになるが、この醸造所のワインは決して濃厚なワインではない。しかし、いずれも調和
のとれた品の良いワインで、静かに熟成を続ける力を持っているように思われた。


醸造所HP:http://www.wein-markus-molitor.de
訪問可能時間:月〜金 8:00−20:00, 土日 11:00-18:00 (要予約)




2.ラインハルト&ベアーテ クネーベル醸造所



この醸造所のあるヴィニンゲン村は、モーゼル河の
下流、ライン河との合流地点に一番近いワイン村
だ。あまりにも傾斜が急で、猫の額のように狭い
段々畑がいくつも集まっている景観は、いつ見ても
圧倒される。この村で現在とくに評価が高いのは、
ヘイマン・レーヴェンシュタイン醸造所と、今回訪れ
たラインハルト・ウント・ベアーテ・クネーベル醸造所
である。
ご主人のラインハルト・クネーベル氏はもともと実家でワイン造りに携わっていたが、1990年に2.7haの葡萄畑を相続し、本家から独立、奥さんの名前もつけて、この醸造所が誕生した。独立間もなくからめきめきと頭角を現し、1999年産でその評判は定評へと変わった。雨が多く困難な年であった2000年に、トロッケンベーレンアウスレーゼまでリリースした数少ないモーゼルの醸造所のひとつ。そんなことからも、ここの並々ならぬワイン造りへの熱意が伺える。

ワインの特徴はモーゼル下流らしく酸が穏やかである一方、果実感豊かでミネラルがぎっしりと詰まった、手ごたえのある味わい。所有する畑は現在合計6.5haで、Winninger Uhlen, Winninger Roettgen, Winninger Brueckstueck, Winninger Hamm。畑の個性はワインに明確に反映されており、特にUhlen, Roettgenの甘口は、白い花の蜂蜜の生き生きとした香りが魅力的。
(オーナーのクネーベルご夫妻)
これまでの個人的な印象では1999年が最上に思われたが、2002年産はその印象を上回る、
説得力のある、完成度の高いコレクションだった。収穫期の雨の影響で、やや弱い印象を受け
るシュペートレーゼ、アウスレーゼが多いなか、ここはそうした弱さをまったく感じさせない。

試飲は6月上旬、醸造所の新酒試飲会にて。5月末から続く本格的な夏日よりで、テーブルの
上におかれたアンティークの水浴びの様子を模した水盤がいかにも涼しげだった。



テイスティングノート

ワイン 2002 Riesling
QbA trocken
2002
Weissburgunder
QbA trocken
2002 Gutsriesling
QbA trocken
2002 Winninger
Uhlen Riesling
QbA trocken
2002 Winninger Roettgen Riesling Spaetlese trocken
濃さ 1 1 1+ 1+ 1+
色調 微発泡 淡金 淡金緑 淡金 淡金
なし 中くらい なし なし なし
強さ 1 2 2 2 2
広がり 1+ 1+ 2 2 2
複雑さ 1 2 2 2 2
ヒント 柑橘 柑橘 グレープフルーツ グレープフルーツ 熟した柑橘、酵母
濃さ 2+ 2+ 2+ 2+ 2+
複雑さ 2+ 2+ 2+ 2+ 3
フルーツ
2+ 2+ 2+ 3 3
ミネラル 2+ 2+ 2+ 2+ 3
アフタ 2 2 2 2+ 3
その他 しっかりした柑
橘の酸とミネラ
Alc.12.5% フレッシ
ュな柑橘、しっかり
酸とミネラルしっか フルーツ感たっぷり、アフタにミネラルしっかり 完熟したフルーツ、しっかりしたミネラ
総合 2+ 2+ 2 2+ 3


ワイン 2002
Winninger
Uhlen Riesling
Spaetlese
trocken
2002
Brueckstueck
Riesling QbA
halbtrocken
2002 Winninger
Hamm Riesling
Kabinett
halbtrocken
2002 Winninger
Brueckstueck
Riesling
Spaetlese
halbtrocken
2001 Weissburgunder QbA trocken Barrique
濃さ 1+ 1 1+ 1+ 1+
色調 淡金、微発泡 淡金 淡金緑 淡金緑 淡金
なし なし なし なし 多い
強さ 2 1+ 2 2 2+
広がり 2 1+ 2 2 2+
複雑さ 2+ 1+ 2 2 2+
ヒント フィネス、柑橘 軽め 清涼感のあるグレープフルーツ すこし酵母 バニラ、グレープフルーツ
濃さ 3 2 2+ 3 3
複雑さ 3 2 2+ 3 2+
フルーツ
3 2+ 3 3 2+
ミネラル 3 2+ 2+ 3 2+
アフタ 3 2+ 2+ 3 2+
その他 なめらかなフル
ーツ、しっかりし
たミネラル
ミディアムライトボデ
ィ、ミネラルの長い
アフタ
柑橘の生き生きした、フルーティな 濃厚でなめらか、まだ閉じ気味 濃厚でなめらか、バニラ、グレープフルーツ
総合 3 2+ 3 3 3


ワイン 2002
Winninger
Roettgen
Riesling QbA
trocken
2002 Winninger
Roettgen -11-
Riesling Spaetlese
2002 Winninger
Roettgen -10-
Riesling Spaetlese
2002 Winninger
Roettgen -9-
Riesling
Spaetlese Alte
Reben
2002 Winninger Roettgen Riesling Auslese
濃さ 1 1+ 1 1 1
色調 微発泡 淡金 淡金 淡金緑、微発泡 淡金
なし なし なし なし ゆっくり
強さ 1+ 1+ 1+ 2 2
広がり 1+ 2 1+ 2 2+
複雑さ 1+ 2 1+ 2 2
ヒント あっさりした柑
すこし酵母、完熟し
た柑橘
すこし控えめの柑橘香 すこし酵母、完熟した柑橘 エッセンス的甘い香り、イチゴ
濃さ 2 2+ 3 3 3+
複雑さ 2 2+ 2+ 3 3+
フルーツ
2 3 3 3 3
ミネラル 2 2+ 2+ 3 2
アフタ 2 3 2+ 3+ 3+
その他 ライト、フレッシ
ュ、フルーティ
フルーツの甘いアフ
タ、こなれたミネラ
ル、たっぷりした口
当たり
凝縮感のある、コンパクトにまとまったフルーツ 完熟したフルーツのエッセンス、長いアフタ シルクの肌触り、薫り高いエッセン
総合 2 3 3 3+ 4


ワイン 2002 Winninger Roettgen -
16- Riesling Eiswein
濃さ 2
色調 金緑
ゆっくり
強さ 2+
広がり 2
複雑さ 2
ヒント アイスキャンディ
濃さ 3+
複雑さ 4
フルーツ感 3
ミネラル 2
アフタ 4
その他 アイスワインとしては中くらいに
濃いめ、コンパクトでなめらか、
凝縮した甘みの長いアフタ
総合 3



まとめ

瓶詰め直後の為だろう、香りが閉じ気味のものが多かったが、味はすでに十分に説得力を持
っていた。ゴー・ミヨやアイヒェルマンによれば、1999年以来常に向上を続けてきたというが、こ
れ以上、どうやって向上するというのだろうか?僕には、この醸造所のワインは2002年産で完
成の域に達したのではないかと思われた。


Weingut Reinhard und Beate Knebel
Augst-Horch-Str. 24 D56333 Winningen/Mosel
Email: info@weingut-knebel.de
訪問可能時間:要予約





3.ドイッツァーホフ醸造所



アール渓谷は山間の温泉郷といった趣のある、のどかな一帯
だ。ここに来るたびに、脳裏には文部省唱歌「ふるさと」のメロデ
ィーが浮かぶ。アール川はごく幅の狭い渓流で、ローカル線から
みえる眺めは、アユ釣りでもできそうな雰囲気だ。かつて西ドイツ
の首都であったボンから程近いこともあり、ワインと温泉目当て
の観光客も多い。

5月末、僕はコブレンツからケルンに向かう列車をレーマーゲン
の駅でローカル線に乗り換えて30分ほどの、マイショースへ向か
った。この村はアールの他の村と同様にワイン村だが、マイショ
ースの葡萄生産者協同組合と、ドイッツァーホフ醸造所はとりわ
け評価が高い。今回の来訪の目的はドイッツァーホフの新酒試
飲会だ。
個人的には、ここのシュペートブルグンダ
ーの赤ワインは、アールの赤の中でもっと
も気に入っている。アール全体ではデルナ
ウ村のマイヤー・ネケル醸造所と評価を分
け合っているトップランナーだが、ドイッツ
ァーホフのワインの方がフルーツ感に繊細
な趣があるような気がする。マイヤー・ネケ
ルはどちらかといえばごつごつとした筋肉
質で、力で押してくるタイプ。オーナーのヴ
ェルナー・ネケル氏は、醸造所を継ぐ前は
もと高校の数学と体育教師だったと聞く
と、なんだか納得してしまう。一方、ドイッツ
ァーホフのウォルフガング・ヘーレ氏は、
結婚して奥さんの実家の醸造所を引き受
ける前は税理士だった。彼のワインが繊
細で緻密なのも、やっぱりなぁ、と、これま
たなんとなく納得させられてしまう。
(もと高校で数学と体育を教え
ていたヴェルナー・ネケル氏。
風貌もワインに似てごつい。)
(ウォルフガング・ヘーレ氏。もと税理士。あまり土臭さの感じられない風貌。)

この醸造所を訪れるのは、これで3回目なのだけれど、また道に迷ってしまった。このあたりに
は葡萄畑のある似たような小高い丘がいくつもあり、それをとりまくようにして住宅が立ち並ん
でいる。一本道を間違えると、ぜんぜん違う景色に戸惑うことになる。まるでこの町が魔力を帯
びていて、僕が醸造所に辿り着くのを拒んでいるかのような感じだ。小一時間ほど彷徨った結
果、ようやく醸造所に着いた。歓迎のゼクトもそこそこに、さっそく試飲を始める。



ティスティングノート

ワイン 2000 Cossmann
-Hehle
Spaetburgunder
QbA trocken
2001 Balthasar C.
Spaetburgunder
QbA trocken
2001 Casper C.
Spaetburgunder
QbA trocken
2001 Grand Duc
Spaetburgunder
QbA trocken
2001 Legere Cuvee Rot QbA trocken
濃さ 2 2 2 2 2
色調 ガーネット やや暗い赤 やや暗い赤 ガーネット 紫赤
なし ゆっくり 多い 多い 多い、太い、早い
強さ 2 2 3 3+ 3
広がり 2 3 3 4 3+
複雑さ 2 3 3 3+ 2
ヒント フィネス、過熟し
て傷み始めたベ
リー
完熟した赤いベリー 赤いベリー、すこし土くさい 冷たい赤いフルー ブルーベリー
濃さ 2+ 2+ 3+ 3+ 3
複雑さ 2+ 2+ 3 3+ 2
フルーツ
2+ 2+ 3 3+ 3
タンニン 2+ 2+ 2+ 3 2
アフタ 2+ 2+ 3 3+ 2
その他 やや酸味の強い
赤いベリー
バランスの良い、調
和のとれた
Balthasarより少し濃いが、フルーツ感はBalthasarの方が素直で魅力 調和 Spaetburg. 40%, Portgieseer 30%, Dornfelder 30%, ステンレスタンク
総合 2 3 3 3+ 2+


ワイン 2002 Cossmann
-Hehle
Spaetburgunder
QbA trocken
(Fassprobe)
2002 Barthasar
C.
Spaetburgunder
QbA trocken
(Fassprobe)
2002 Casper C.
Spaetburgunder
QbA trocken
(Fassprobe)
2002 Grand Duc
Spaetburgunder
QbA trocken
(Fassprobe)
2002 Mayschoser Moenchberg Spaetburgunder QbA trocken (Versteigerungswein, Fassprobe)
濃さ 2 2 2 3 3+
色調 熟したイチゴ 黒味を帯びた赤 黒味を帯びた赤 黒味を帯びたガーネット 黒味を帯びた赤
なし やや多い 多い 多い 多い、ゆっくり
強さ 2 2 3 3 3
広がり 2 2 3 3 3
複雑さ 2 2 3 3 3
ヒント ラズベリージャム ラズベリー、樽 冷たいラズベリー 冷たいブルーベリ やや閉じ気味
濃さ 2+ 2+ 3+ 3+ 3+
複雑さ 3 3 3 3+ 3+
フルーツ
3 3 3+ 3+ 3+
タンニン 2+ 3 3 3 3
アフタ 2 2+ 3 2+ 3+
その他 コンパクトにまと
まっている
アルコール感、ア
フタにタンニン
バランスの良い 樽のヒントがしっかり、完成度高い アフタの伸びが綺麗、長期熟成型
総合 2+ 3 3+ 3+ 3+


ワイン 2002 Alfred
C.
Portugieser
QbA trocken
(Fassprobe)
2001
Deutzerhof
Dornfelder QbA
trocken
2002
Deutzerhof
Dornfelder QbA
trocken
(Fassprobe)
濃さ 2 4 4
色調 ラズベリー 黒味を帯びた赤
紫赤
少なめ 多い、太い やや多い
強さ 2 3+ 3+
広がり 2 2 3
複雑さ 2 3 3
ヒント 甘い、巨峰 ぎっちり詰まって
いる、オリエンタ
ルスパイス
フルーティ
濃さ 2+ 3 3+
複雑さ 2+ 2+ 3
フルー
ツ感
2+ 3 3+
タンニン 2+ 3+ 強い 3
アフタ 2 3 3
その他 バランスの良
濃縮感のあるフ
ルーツ、ガシガシ
のタンニン、パワ
フル
2001よりタンニ
ン控えめ、フル
ーツ感のしっか
りした
総合 2+ 3+ 3+



まとめ

アールでは2002年は寒暖の変化の激しい年だったそうだ。6月上旬から中旬にかけては非常
に暑く乾燥した日が続き、マイショースのメンヒベルクの地表温度は60度に達した。翌7月は肌
寒い日と暑い日がころころ変わり、平均すると例年並となる。8月は蒸し暑く、月末から天候が
崩れ、局地的な大雨、雹に見舞われたが、9月は穏やかに晴れ上がった日が続き、葡萄も順
調に熟し、収穫を迎えた。

試飲した印象では、2002年産は2001年産と同様の上出来だと思う。キュベの格があがるにつ
れて風味の奥行きも順当に次第に増している。バリック仕立の赤が主力だが、アリエ産の樽を
ミディアムローストしたという品の良い、果実味とバランスのよくとれた樽の味が、新酒からは
比較的はっきりと感じられた。

赤のほか、リースリングもドイツァーホフ醸造所ではリリースしている。なかなか良いワインだ
が、モーゼルにも同じくらいに魅力的なリースリングは数多くあるのと、価格が高いのが難点。
興味深かったのは、2002 Altenahrer Eck Riesling Ausleseの1番絞りと2番絞りを分けて醸造し
たもの。前者が31Euro(0.375L), 後者が26Euro (同)なのだが、1番絞りは薫り高いエッセンス
的な甘みたっぷりの魅力的なアウスレーゼなのに対して、2番絞りはやや輪郭のぼやけた、い
まひとつぱっとしない甘口だった。

あと、個人的にこの醸造所のドルンフェルダーは、ドイツのドルンフェルダーで一番気に入って
いる。この葡萄品種から造ったワインは土臭くてクセがあるものが多いが、ここのは濃厚で比
較的上品なフルーツ感。タンニンもがっしりして、飲み応えあり。機会があれば、一度試してみ
て下さい。そうそう、シュペートブルグンダーのベーレンアウスレーゼから造ったワインヴィネガ
ーなんてものもリリースしてます(12.80Euro/0.25L)。


醸造所HP: http://www.weingut-deutzerhof.de
訪問可能時間:要予約


(2003年6月)




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