モーゼルへ向かう列車のことを思い浮かべると、ドイツへ留学に来て初めてドイツ国鉄(DB)に乗った時のことを思い
出す。ぎっしりと中身の詰まったスーツケースを引きずり、リュックサックを背負って地面と同じ高さのラットホームから
列車のタラップを上がり、やっとの思いでコンパートメントに席を確保したときは、流石にほっとした。フランクフルト中
央駅を出発してまもなく、滔々と流れるライン河に平行して走る車窓一面に、ラインガウの葡萄畑が広がった。その
時、やっと来たんだ、という思いで胸がいっぱいになった。

ビンゲンを過ぎ、ミッテルラインに入るあたりから河岸の斜面は一層険しくなる。そそり立つ斜面の上に古城が点々と
見え、さながらニーベルンゲンの物語の世界に彷徨いこんだかのようだ。有名なローレライも途中にあったはずだが、
旅の疲れでうたたねしている合間に見過ごしてしまった。およそ2時間弱でコブレンツKoblenzに到着。トリアー
へと列車で向かう旅人は、モーゼル河がライン河に合流するこの町でローカル線に乗り換える。地下通路を通って一
番端のプラットホームへ行き、行き先表示板を確認。『nach Trier』。トリアーに停まる列車には各駅停車(RB)、急行
(RE)、あるいはルクセンブルク行きのインターシティ (IC) がある。少なくとも一時間に一本は出ており、各駅停車だと
丁度2時間、そうでなければ約1時間半ほどで、トリアーに到着する。



コブレンツでライン河に別れを告げ、モーゼルを渡る鉄
橋を越えて間もなくすると、まるで段々畑の様な葡萄畑
が右手に見える。モーゼル下流、ヴィニンゲンの葡萄
畑だ。そこからシュバルツ・カッツで有名な村ツェルの
隣町、ブライBullayの駅までおよそ1時間、列車は
モーゼル河と葡萄畑の間を走る。ラインより狭い川幅と
両岸の斜面、川縁の緑に包まれた広場に並ぶキャンピ
ングカー、ゆったりと川面を走る観光船や輸送船を眺め
ていると、次第にドイツという国の懐の奥深くに向かっ
ているような気がしてくる。


(コッヘムとコブレンツの途中の村Alken。)





途中、コッヘムCochemの駅に停まる。ここの町外れの丘の上には城があり、駅の近くの売店では地元のワインをグラス売りしている。観光シーズンには2時間間隔でモーゼル遊覧船も出ていたはずだ。




(右手奥がコッヘムの城。)

コッヘムを出て間もなく入るトンネルを抜けると、駅を一つ過ぎてすぐに鉄
橋を渡る。この時右手に急斜面が聳えているが、これが世界で最も急峻
な葡萄畑と言われるブレマー・カルモントの斜面だ。ブライの駅を過ぎ鉄
橋を渡り、すぐにトンネルに入る。ここを出るとモーゼル河沿いに緩やか
なカーブを描いて線路が走り、斜面が川面へと連なる風景が背後に見え
る。絶好のシャッターチャンスである。ここを過ぎると列車はモーゼルを離
れ、アイフェルの山中を走る。トリアーの直前までモーゼルとはお別れ
だ。

(列車から見たブレマー・カルモントの斜面)

モーゼルを満喫するのなら、ブライの駅からトラーベン・ト
ラーバッハTraben-Trabachの町へ向かうローカル
線に乗り換える手もある。トラーベン・トラーバッハの町並み
のあちこちには、かつてのワイン商業による繁栄がその面影
をとどめている。そこから出ているベルンカステル・ク
ースBernkastel-Kuesへ向かう観光船に乗れば、途
中、ナックトアーシュで有名なクレーフ、エルデン、ユルツィ
ヒ、ツェルティンゲン、グラーハといった著名な葡萄畑の眺め
を堪能することができる。


(写真上:ベルンカステルの町を対岸から望む。町の背後左の斜
面がドクトール。
写真右:ベルンカステルの中心部。土産物屋やカフェ、居酒屋と
なった築数百年の建物が所狭しとならんでいる。)
ベルンカステルはいわずと知れた中部モーゼルワインのメッカだ。15世紀に活躍した枢機卿ニコラウス・フォン・クースが設立した施療院の隣にはワイン博物館があり、地下の酒蔵では近郊の中堅の醸造所のワインおよそ70種類前後が試飲できる(シーズンオフは10種類前後)。有名なドクトールの畑を目指して中世の面影を残す曲がりくねった坂道を散歩するのもいいだろう。ベルンカステルからトリアーへ向かうには、タクシーかバスでヴィットリッヒWittlichの駅へ向かう。およそ20分ほどの距離だ。



ヴィットリヒの駅をすぎると、トリアーまではもう一息である。なだらかな牧草地と森が続き、所々にある林檎の木が初
夏には白い花を咲かせる。エーラングEhrangの駅をすぎ、鉄橋で再びモーゼルを渡るとトリアーの町に入り、フランク
フルトからまっすぐ来ても3時間はかかる長旅は、ようやく終わりを告げる。

南ドイツからトリアーに向かう場合、ザールブリュッケンSaarbrueckenを経由し、ザール河に沿ってトリアーに至る列
車を利用することになる。ザールブリュッケンからは1時間ほどだ。ルクセンブルクLuxemburgからも毎時列車が出て
いて、こちらも所要時間は1時間ほどである。

車で移動する場合はwww.viamichelin.comなどでルート検索すれば、詳細な行程と所要時間がわかるだろう。

モーゼルの各村へは、鉄道が通っていない場合でも大抵はバスで行くことができる。ドイツ鉄道のサイトかトリアーの
バス組合のサイトで検索してみてください。



・お役立ちリンク

www.bahn.de ドイツ鉄道DBのサイト。列車とバスの発着時刻の検索に欠かせない。
www.mosel.de モーゼル全域の観光情報満載。残念ながら今のところドイツ語のみだが、写真を眺めるだけでも楽しい。モーゼルの地図はhttp://www.mosel.de/pages2/0101_map.jsp?dom=de
www.viamichelin.com 車で移動する場合のルート検索に便利。ちなみに、フランクフルトからトリアーまで直行した場合の所要時間はおよそ2時間半。
www.trier.de トリアー市のサイト。観光情報、ホテルの予約、町の地図、イベント情報など盛りだくさん。英語あり。
www.cochem.de コッヘムの観光案内。英語もあるが、大部分ドイツ語。
www.bernkastel-kues.de ベルンカステルのサイト。ワイン博物館(Vinothek)へのリンクがある。






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