八月最後の週末、ザールにあるファン・フォルクセン醸造所で2003年産の試飲会が行われた。かつてイエズス会修
道院だった建物の一角にあるユーゲント様式のホールには、育ちのよさそうな若者達−おそらくオーナーの友人だろ
う−や、マキシミン・グリュンハウス醸造所のオーナー、フォン・シューベルト氏と娘さん、数ヶ月前グリュンハウスの
ケラーマイスターに就任したばかりの若手醸造家シュテファン・クラムル氏、トリアーのワイン農家の顔役ペーター・テ
ルゲス氏などの姿もあった。もっぱら会話に夢中になっている人々がいる一方で、熱心に試飲メモをとる人もあり、裕
福な顧客を抱える著名醸造所−例えばカルトホイザーホフ醸造所やグリュンハウス醸造所−の試飲会独特の、どこ
かしら浮世離れした雰囲気が漂っていた。




◇醸造主任の交代


1999年末に現オーナーのローマン・ニエヴォドニツァンスキー氏が、売りに出されていた醸造所を手に入れて以来、こ
れが4度目のリリースとなる。設立当初から彼と組んでいた醸造主任のゲルノート・コルマン氏は2003年産を最後に
醸造所を辞め、ワインコンサルタント会社を興し独立した。彼の後任にはフランケンのファイツホッホハイムにある農業
専門学校醸造科出身で、弱冠24歳のドミニク・フェルク氏が選ばれた。「彼はワインの事になると、時間を忘れるみた
いだね。夜中になって、もういい加減にしようよと言ってもまだ熱中しているんだよ。夏休みに他のクラスメイトがみん
な実家に帰っても、彼だけは研修先の醸造所に残って仕事していたそうだし。」と、ガイゼンハイム醸造専門高等学
校から研修に来ている若者は、フェルク氏熱心さに半ばあきれながらも親しみのこもった様子で語った。著名醸造所
の若手醸造主任は大抵、醸造エンジニアの学位を持つガイゼンハイム出身者だが、あえて農業専門学校出身のフェ
ルク氏を選んだ理由について、オーナーは「ガイゼンハイムに染まっていなかったところが気に入ったんだ」という。
「専門学校での成績も2年続けて主席だし、とにかく熱心だよ。」でも、現場で責任を負ったことの無い若手に、評価
を高めつつある醸造所のワインを任せて大丈夫なのか?それに対しては「ワインは醸造技術で造るものじゃない。畑
での成果がワインの質を決めるんだ。」と言う。「その点についても、フェルク氏はよくわかっていた。それも、彼を選ん
だ理由のひとつだね。」
母の実家がフランケンのワイン農家というフェルク氏は、ヨハン・ルック醸造所などで約2年間の研修経験がある。遠視メガネのため目が大きく見え、フランケン訛りでニコニコと話す若者だ。2004年産をどんなワインにしたいかと聞くと、「もうちょびっと辛口にもっていきたい。ちょびっとね。」と笑った。その人当たりの良さで、知己を得た醸造所のケラーマイスター達からも可愛がってもらえれば、きっと醸造上の難しい局面にぶつかった時の助言にも事欠かないに違いない。







ゲルノート・コルマン氏が去った後、2004年産から醸造責任を負うドミニク・フェルク氏(24歳)。フランケン訛りはちょっと聞き取りづらいが、人当たりの良い若者だ。



◇2003年産について


『100年に一度の当たり年』と言われた2003年も、最近になってようやく実はそれほど偉大な年ではなかった、と言う
意見で落ち着いてきた。猛暑による渇水と酸不足、辛口の場合高すぎるアルコール度が指摘されている。しかし試
飲してみた印象では、この醸造所のワインにそうした欠点はとくに見当たらなかった。完熟した果実感に加えて2003
年産ではミネラルの風味が一層しっかりとしており、気品すら漂わせている。

「2003年は稀にみるほど葡萄が早く熟した。これは世界に通用する偉大な
ワインを造る大きなチャンスで、僕はそれを利用し尽くしたいんだ。」と昨年
10月上旬に醸造所を訪れた時言っていたニエヴォドニツァンスキー氏は、
10月中にほとんどの醸造所が収穫を終えた中で、大半を11月まで待って
から収穫した。「気違い沙汰だよ」と地元ワイン農家に揶揄されながらも、
初志を貫徹。結果として見事な出来栄えに仕上がっている。惜しいのは大
部分を中辛口に仕立てており、残糖が気持ち多めなので口当たりは良い
が、反面畑の個性やワインによる味わいの差が期待するほど際立っていな
いことだろうか。また、フルーティな甘口シュペートレーゼも2003年産は3種
類リリースしているが、これは中辛口になりそこなった甘口といった趣があ
る。シャルツホーフベルガーのアウスレーゼも濃厚というほどではなく、現
時点ではとりわけ魅力的には思われなかった。



(オーナーのローマン・ニエヴォドニツァンスキー氏。試飲会でワインに寄っ
てきた蜜蜂を、殺さずに布で包んで窓から外に逃がしていた。優しい一方、
頑固一徹でもある。)



◇試飲メモ





・品種名・地区・村名ワイン
複数の畑の収穫をブレンドしたり、契約農家からの収穫を用いている。

1. 2003 ヴァイスブルグンダー トロッケン(辛口) 
  Weissburgunder trocken
濃厚、滑らか、パワフル。完熟したグレープフルーツにマンゴのヒント。香り
はブルグンダーだけど、味はなぜかリースリングを彷彿とさせる。長いアフ
タ、舌に力強いミネラル。86

2. 2003 ザール・リースリング トロッケン(辛口) 
  Saar Riesling trocken
柑橘のアロマが真っ直ぐに立ち上る。コンパクトにまとまった果実味に完熟
したグレープフルーツ、白桃のヒント。アフタにシーファーのミネラル。広がり
感にはやや物足りなさが残るが、濃い目。85

3. 2003 ヴィルティンガー・リースリング トロッケン(辛口) 
  Wiltinger Riesling trocken
落ち着いた香りに完熟した柑橘、白木、ヨーグルトのヒント。熟した柑橘がミ
ネラルと調和。長いアフタにミネラル。85

4. 2003 ザール・リースリング アルテ・レーベン トロッケン(辛口) 
  Saar Riesling Alte Reben trocken
「アルテ・レーベン」は古木の意味。100歳を超える古木からの収穫も含まれ
ているという。シルキーな肌触りで軽やかなアロマ、完熟した柑橘に発酵臭
が少し。エッセンスぽいピュアな甘みにオレンジ、完熟した柑橘のヒント。繊
細。アフタに残る力強いミネラルに石灰のヒント。2003年は根が深くまで伸
びた古木に有利な年だったと思う。86
(毎年試飲会の開催されるホール。)



・単一畑産リースリング

単一畑名を名乗るワインは、樹齢30年以上の木から11月以降に収穫、木樽で自然酵母による発酵を行った。平均
収穫量は40hl/ha以下。


(ホールの棚の上に並ぶ空き瓶。オーナーが辛口リ
ースリングで目指すワイン達である。)
5. 2003 ヴィルティンガー・ブラウンフェルス リースリング トロッケン(辛口) Wiltinger Braunfels Riesling trocken
アロマティック。南国のフルーツのヒントが目立つ。マンゴー、完熟した柑橘、軽く過熟して痛みかけたグレープフルーツのヒント。ニュアンスはもう一歩だが軽やかで複雑、たっぷりしたミネラル。86

6. 2003 ヴィルティンガー・ブラウンフェルス "フォルス" リースリング トロッケン(辛口) Wiltinger Braunfels "Vols" Riesling trocken
気品のある伸びやかな香りにミネラル、柑橘のヒント。繊細な趣のある完熟した柑橘に、鉛筆の芯の匂いに似た真っ直ぐに立ち上るミネラルのヒントが編みこまれている。残糖分が低いぶん、畑の個性が明確に出ており、好印象。87

7. 2003 ヴィルティンガー・クップ リースリング ファインハーブ(中辛口)Wiltinger Kupp Riesling feinherb
素直に広がる甘い香り、完熟した柑橘に白桃、マンゴー、消炭のヒント。エレガント。完熟した柑橘の中にオレンジのヒント、アロマティックでフルーティな中辛口。この醸造所らしい仕上がり。86

8. 2003 シャルツホーフベルガー リースリング ファインハーブ(中辛口)
Scharzhofberger Riesling feinherb
ミネラルの印象が最もはっきりしている。まとまりのある上品な果実感に
完熟した柑橘、洋ナシのヒント。85

9. 2003 ヴィルティンガー・ゴッテスフス リースリング ファインハーブ
(中辛口)Wiltinger Gottesfuss Riesling feinherb
ミネラルによる繊細な香りと完熟した果実の甘い香りにアプリコットのヒ
ント。滑らかで濃厚な舌触り、アロマティック、完熟したオレンジのヒント。
87

10. 2003 ヴィルティンガー・クロスターベルク "ミリヒベルク" リースリン
グ ファインハーブ(中辛口)Wiltinger Klosterberg "Millichberg"
Riesling feinherb
完熟した柑橘の香り、白桃、アプリコットのヒント。なめらかで濃厚な果実
感にオレンジ、アプリコット。長いアフタにたっぷりしたミネラル。86

11. 2003 シャルツホーフベルガー "ペルゲンツクノップ" リースリング フ
ァインハーブ(中辛口)Scharzhofberger "Pergentsknopp" Riesling
feinherb
気品が漂う繊細なシーファーの香りにアプリコットのヒント。濃厚な完熟し
た柑橘とミネラルのシンフォニー。柑橘、洋ナシ、複雑、エレガント。88


12. 2003 ヴィルティンガー・ゴッテスフス "アルテ・レーベン" リースリング ファインハーブ(中辛口)
   Wiltinger Gottesfuss "Alte Reben" feinherb
樹齢120年の古木からの収穫。閉じた果実香に発酵のヒント。エッセンス的なピュアな甘み、柑橘、ベリー。繊細。86

13. 2003 カンツェマー・アルテンベルク "アルテ・レーベン" リースリング ファインハーブ(中辛口)
   Kanzemer Altenberg "Alte Reben" feinherb
ヴィルティンゲンの隣村、カンツェムにあるザールで最上の畑のひとつがアルテンベルク。そのうち古木の植わった
2haを2002年末に入手して、2003年産が最初のリリース。一説によれば、オーナーの母(ドイツ最大のビール会社ビ
ットブルガー創業者の娘)が誕生日プレゼントに、2haを贈ってくれたのだとか。

ベリーの甘い香りにカラメルのヒント。2003年の猛暑で果実が焼けた影響がわずかに出ていると思う。エッセンス的
で繊細な果実味。上品。86



・甘口

辛口・中辛口に比べるとやや物足りない。2004年初めの厳しい寒さで、発酵を続けさせるのが困難だったという話を
同じザールにある醸造所で聞いた。あるいは本来中辛口か辛口まで持って行きたかったが、出来なかったワインで
あるのかもしれない。(オーナーに確かめることは出来なかったけれど。)2000年産甘口もリリース当初は軽く物足り
なかったので、2003年産も数ヶ月後に印象が変わる可能性はある。

14. 2003 ザール リースリング "アルテ・レーベン" リースリング シュペートレーゼ(甘口) 
Saar Riesling "Alte Reben" Spaetlese
猛暑で少し干からびた葡萄を思わせる香り。完熟した柑橘に洋ナシのヒント、調和のとれた味だが、いまひとつ物足りない。残糖度は30g/Literくらいだろうか。83

15. 2003 シャルツホーフベルガー リースリング シュペートレーゼ(甘口)Scharzhofberger Riesling Spaetlese
洋ナシ、完熟した柑橘のヒント。やや軽めの調和のとれた甘口。83

16. 2003 カンツェマー・アルテンベルク リースリング シュペートレーゼ(甘口) Kanzemer Altenberg Riesling Spaetlese
これも猛暑の影響が感じられる焦げたアロマが少し。繊細な果実味、ミネラルの調和。83

17. 2003 シャルツホーフベルガー リースリング アウスレーゼ(甘口) Scharzhofberger Riesling Auslese
シーファーのアロマ、完熟した柑橘のヒント。繊細で上品だが閉じている。この醸造所のアウスレーゼとしてはもう一歩。84
(ワインの大半は木樽で自然酵母により発酵される。)



◇総括

ファン・フォルクセン醸造所については、これまでオーナーが醸造経験の無い若者であり、彼の実家が相当な資産家
であることから、地元では金持ちの道楽と批判的に見る意見もしばしば聞かれた。しかし4度目のリリースを迎え、状
況は少しずつ変わりつつあるようだ。彼の成功が単に資産家同士の馴れ合いによるものだけではなく、志の高さによ
るものであることは、そのワインが示す通りである。新任醸造主任のフェルク氏が、2004年産に示す才能と情熱に期
待したい。

(2004年8月)

以前のVan Volxem醸造所訪問記:2002.2/2003.2/2003.8/2003.10

Weingut Van Volxem
Dehenstr. 2  
D 54459 Wiltingen/Saar


Tel. +49(6501)16510
Fax. +49(6501)13106
Email: vanvolxem@t-online.de
HP: www.vanvolxem.de

訪問可能時間:月〜土:8:00-19:00 (事前の予約が必要です。)




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